僕らが大人になる理由


紺野さんは無言であたしの頭を叩いた。痛い。でも、お腹すいたんだもん。

すると、紺野さんはすっと席を立ってキッチンに向かった。


「あーなんもない…。あいつ等(吉良と名取)のつまみの残りしか…」

「え」

「ちょっと待っててください」


と言って、紺野さんがあたしの部屋を出ていった数分後、手に何かを持って帰ってきた。

厚切りのトーストの上に、ホワイトソースと、チーズとハム…。

ちょうどいい焦げ目が、食欲をそそる。

あたしは、それと紺野さんを交互に見ながら、当惑していた。


「え、え!?」

「クロックムッシュ。嫌いなら食べなくていいですから」

「いやいやいやいや食べます食べます早急に。ていうかこれ紺野さんが作ったんですか!?」

「作り置きのホワイトソースがあったから…そんなもの誰でも作れますよ」

「まずホワイトソースを作り置くシチュがないんですけど…」

「いいからはやく食べて下さい」

「いただきますうう」


あつあつのそれにかぶりついた瞬間、口の中が幸せでいっぱいになった。

美味しい。

とろとろで、まろやかで、少しかかってるブラックペッパーがちょうどいいアクセントになっている。

いつも朝食はほとんど食べていなかったから、本当に感動した。

あたしは、失礼なことに何の感想も言わずに、無我夢中でクロックムッシュを頬張った。


「食べ終わったら食器は洗って…」

「やばいです! めっちゃ美味しかったです!」

「は?」

「こんなにおいしいパン初めて食べました!」

「それはPascoにお礼を言った方が…」

「また作ってください!」

「いや、だから、それは、Pascoのお陰…」
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