僕らが大人になる理由
「ずっと会うことを拒否していたくせに、今更なんなんですか?」
「……」
「聞いたはずですよね? あなたの会社と、柊人君のお父さんの関係を」
由梨絵ちゃんの追い打ちをかける言葉に、あたしはうつむいた。
「そんな所でこれから一生働くのに、まだ柊人君のことが好きだなんて、良く言えますね。信じられません」
「…………」
「挙句の果てに、柊人君の優しさまで拒否して…仕事も突然辞めて迷惑かけて…」
「……さい」
「もう謝っても遅いと思いますよ?」
「……るさい…」
「もう諦めて、大人しく裕福に暮らしたらどうですか?」
「うるさい!!」
―――あたしは、生まれて初めてこんなに大声を出した。
由梨絵ちゃんは一瞬びくっとして、あたしを見つめた。…にらみ合った。
自分でもこんな言葉出てくるとは思わなかった。
「もう遅いなんて、勝手に決めつけないで!」
「………」
「何も行動していないのに、勝手に自分で結果を決めて諦めるのは、あたしは嫌だよ!」
「………」
「もう、“何もできない子供”は嫌だよ…。守られてばっかりなのは嫌だよ。逃げてばっかりなのは嫌だよ」
「………」
「もう遠慮だってしたくない。本当のことをちゃんと伝えたい。ごめんね由梨絵ちゃん、本当は今でも好きなんだっ…紺君が、大切なんだっ…諦められないんだっ…どうしても」
…こんなにも、自分の気持ちを我武者羅に言葉にしたことはない。
きっと呆れられてる。
諦めの悪い人間だって。
無茶苦茶言ってる人間だって。
でももう、抑えきれなかったんだ。
「…これ、店名と電話番号です」
「え……」
「……わたしのことは、許さなくていいです。ずっと悪役でいることが、せめてもの償いだと思っています」
「由梨絵ちゃん…?」
「そのかわり、ちゃんとして下さいね」
それだけ言い残して、由梨絵ちゃんは去って行った。
あたしは、店名と住所と電話番号が書かれたメモ帳を持って、暫し呆然としてしまった。
由梨絵ちゃんの言葉の意味が、わからなかった。