僕らが大人になる理由
あたしは、暫く落ち込んでから、諦めて帰ることにした。
それにしても社員研修なんて、社員は紺君しかいないのに、しかも今更、一体何の研修をしているのだろう…?
もしかして、2号店を出すとか…?
そんな風に疑問に思いながらレンタルビデオ屋の前を歩いていると、
「真冬さん?」
と、後ろから声をかけられた。
そこには制服姿の、由梨絵ちゃんがいた。
「あっ…! 由梨絵ちゃん、久しぶり」
「お久しぶりです」
由梨絵ちゃんはにこりともせずに、口だけを動かした。
あの日以来会っていなかったから、とても気まずかった。
由梨絵ちゃんは、長い髪を2つ結びにして、髪の毛を黒に戻していた。
何だか少し、雰囲気が変わったように思える。
会話に困っていると、由梨絵ちゃんが少しずつ近づいてきた。
「柊人君に会いに来たんですか?」
「えっと……」
「だったらもう遅いですよ」
「え?」
「今更何しに来たんですか?」
もう、遅い…?
どういうこと?
由梨絵ちゃんの口から発せられた言葉を、あたしは上手く処理できずにいた。
由梨絵ちゃんは、また表情一つ変えずに、言葉をつづけた。
「柊人君は今朝から、九州にいます。清水さん…店長のお兄さんが九州でレストランを経営していて、柊人君は今日からそこで働くことになったんですよ」
「え……」
「もう彼は帰ってきません。清水食堂にはもう、帰ってきません」
―――思いもよらなかった展開に、頭が追いついていかない。
紺君が帰ってこない…?
だから今日、最後だと言った…?
あのオルゴールは、餞別だった…?
嘘だ。
もう、間に合わない…?