僕らが大人になる理由

「…でも、嬉しいなあ、こういう形でまた光流君と再会できるなんて」

「えー何言ってんの、夏も会ったじゃん」

「でも、こんな風に仕事でも関わりあえるなんて、なんか嬉しいです」

「真冬んどーなの? 仕事は」

「うん、まだ凹むときの方が多いけど、目標ができたから、それ目指して頑張る!」

「グルメ情報誌の編集に行きたいんだっけ? 真冬食べるの好きだもんなー」


光流君は、頬杖をついたままくっと笑った。

何だかその笑い方がとても大人っぽくて、少しドキッとしてしまった。


「あ、じゃあ、最後の質問なんだけど、目指しているものってありますか?」

「んー、俺はね、とりあえず稼ぎたいかな」

「光流君らしい…」

「めっちゃ稼いで、色んなところで働いて、スキルアップして、どんどん視野を広げたい」

「………」

「いつかできるお嫁さんのためにね」

「す、素敵……」

「100点の答えでしょ、最後の一言太字にしといてね!?」

「もちろんです!! やっぱり光流君すごい乙女心わかってる! どっかのロボットとは大違い!」

「だろ!? 真冬、気が向いたらいつでも来いよ!!」


がしっと光流君と熱い握手を交わした。

その瞬間、頼んでないはずのデザートが、静かに置かれた。


「え……」

「こちら、蜜漬け苺添えのパンケーキ、蜜漬け苺抜きです」

「……え、なんで、ディナーしかいないはずじゃ…えっ、それより、苺抜き?! 抜きなんですか?!」

「超お得意様2人が来てるとのことだったので張り切って作りました」

「………」

「どうぞごゆっくり」


あたしと光流君は、握手をした形のまま固まった。

絶対零度の瞳のロボットはデザートを置いたらさっさとスタッフルームに消えてしまった。

どうしても紺君のお店で話したいという光流くんのお願いでこの場所に決定したのだが、それはもちろんランチには紺君はいないはずだったからで…。


「真冬……がんば」

「ちょっと声が大きすぎましたかね…」

「てか俺だいぶ前から紺ちゃんが来たの知ってたんだけどね」

「え!?」

「だってなんかちょっと邪魔したいじゃん?」

「な、そんな……」

「紺野店長に、開店おめでとうって言っといて! じゃあね!」

「あっ、えちょっと待っ」

「ごめん、俺次の撮影あるんだー」

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