僕らが大人になる理由


この頃何だか色々色々考えてしまう。

なぜだろう。

真冬は春から社会人になって、光流とも普通に話せるようになって、由梨絵の家にもご飯を作りに行って、真冬の笑顔も取り戻せたのに。

前よりは良くなった、はずなのに。

考えだしたら止まらない。なにか漠然とした不安が、胸の中で膨らんでいく。それが一体何に対する不安感なのか分からない。



……ピピピピピ。

規則正しい機械音で目が覚めた。

今日は定休日だけど、やらなくてはいけないことがある。

朝は正直かなりすごく苦手だけど、俺は重い腰をあげた。

遮光カーテンの隙間から漏れた真っ直ぐな光が、殆ど何も置かれていない床に一本の線を引いている。

朝日が差し込んで、一日が始まる。それなのに、俺の気持ちはどこか晴れない。

心だけじゃなく、なんだか体も重たい気がしてきた。

俺は、とりあえず水を一杯飲もうとキッチンに向かった。


その時、スウェットに入れっぱなしだった携帯が震えた。

……真冬からの着信だった。



「もしもし」

「あっ、紺君? あのね今店長の好きなバームクーヘンのお店にいるんだけどね、ホワイトチョコかかってるのと普通のどっちがいいですかね?」

「俺は普通の方が好きです」

「じゃあ半々で買っていこうかなあ」

「それが最善かもしれませんね」

「……なんか紺君、声いつもと違う?」

「そうですか? ちょっと風邪気味だからかもしれません」

「えっ、だ、大丈夫ですか?!」

「いや、全然大丈…」

「えっ、紺君!? 紺君もしもし!?」



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