僕らが大人になる理由

『お前って本当に大人だな』

『何か欲しいって思ったことあんの?』


―――そうだ。

あの言葉には、続きがあった。


『なんかお前ってさ、人に執着心なさ過ぎて、恋人出来ても幸せにできなそう』


……そうだ、ずっと引っかかっていたのは、それだ。

誰かを幸せにすることが、俺にできるのか?

真冬を幸せにすることが、俺にできるのか?


由梨絵も、俺は結局幸せにすることができなかった。

光流は、俺を信じてくれたのに。


俺が真冬を幸せにできるって、信じてくれたのに。


どうしてこんなに自信が無いんだろう。

こんなこと、今までなかった。

何も期待していなかったから、自信があっても無くても、変わらなかった。


『この意気地なし』


……よくあんなことが、真冬に言えたもんだ。

本当は怖くて仕方ない。

意気地なしだ、俺は。



「紺君!」



―――頬を叩かれる感覚がして、俺はうっすらと瞼を開けた。

眩しくて最初は良く見えなかったけど、だんだんと俺を心配そうに見つめている人の顔を把握した。

俺の両頬を両手で挟んで、今にも泣きだしそうな顔で見下げている真冬がそこにいた。


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