僕らが大人になる理由

「真冬。俺が怒ってるのは、さっきの客に対してで、真冬じゃないです」

「っ」

「副店長として、酒の勢いでうちの店員に…真冬にあんなことしたことが、許せなかったんです。俺が怒ってる姿で、怖い思いをさせたなら、すみませんでした」

「紺く…」

「それに、真冬はちゃんと頑張れてます。手洗いチェックも、トイレ掃除も、挨拶も、笑顔も、自分がまだできないことがある分、頑張ってること、ちゃんと知ってます」

「っ…」

「だから、こんなことで責任感じてやめられたら困ります。あんな酔っ払いのせいで、真冬がやめたら、今度こそ俺は本気で怒るよ」


…どうしよう。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

本当に、嬉しい。泣きたい。嬉しい。泣きたい。…嬉しい。


初めて自分を評価してくれる人に出会った。

褒めてもらえることが、こんなに幸せなことなんて、知らなかった。こんなに泣きたくなるなんて、知らなかった。

今まで、ずっと親に溜息をつかせていた自分。

溜息をつかれるたびに、自分を嫌いになってた。

どうやって自分の好きな所を見つけたらいいのか分からなかった。見つける努力さえしなかった。



…たった一度で良かったんだ。

たった一度、誰かに褒めてもらえれば、自分を好きになれる気がしてた。

その時をずっと、待っていた。



「紺君…」

「はい」

「紺君、ありがとう…」

「…はい」

「あと好きです私服かっこよすぎます結婚してください」

「それは聞かなかったことにします」

「なんでええええ!」

「………」
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