僕らが大人になる理由
彼女はぺこっと頭を下げて、レジに向かった。
途中までにこやかだったのに、DVDの話をしてから無表情になってしまったのは気のせいだろうか。
とにかく華やかで知的で雰囲気のある美女だった。
あたしは、その後10分くらいDVDをさがして、結局合計3本のDVDを借りた。
紺君が求めてるものがこの中にあるといいな。
紺君が喜ぶ顔が、見たいな。
そう思いながら帰宅したあたし。
春の穏やかな夜は過ぎ去り、6月に近づくにつれ、だんだんと空気が湿ってきた。
錆びた鉄の手すりは冷たく、階段を叩くヒールの音だけが、静かに響く。
「鍵鍵…」
部屋に入ろうとした瞬間、偶然隣の部屋が空いて、紺君が出てきた。
「あ」
あたしは高い声で、紺君は低いだるそうな声で、あ、と声を上げた。
紺君はまたラグランにスウェット姿で、お風呂上りなのか、ワックスも何もかも落ちていて、髪の毛がふわふわだった。しかも首に巻いたタオルがセクシーだ。
「すみませ…そのタオルくださ…っ」
「怖いです近寄らないでください」
「誘ってるんですか!」
「コンビニ行くだけです」
「紺君好きです!」
「会話成立してません」
眉一つ動かさずに答える紺君。
あたしがワーワー言っても、紺君はいつも冷静だ。
紺君は鍵をかけながら、話題を変えるためか、大して興味無さそうに質問を投げかけてきた。
「こんなに遅くまでどこに行ってたんですか?」
「あ、TSUTAYAです」
「…真冬でも映画鑑賞とかするんですね」
「いや…ちょっと探し物があって…。あっ、そうだ、紺君何か欲しいものありますか?」