僕らが大人になる理由
あたしは、もしDVDが見つからなかったとき用に、他に何か欲しいものが無いか尋ねた。
でも紺君は、考えるそぶりを全く見せずに、
「無いです」
と、答えた。
夜の闇に包まれて、紺君の顔が見えない。
けどきっと、彼の瞳は、この闇より暗かった。
それくらい、その声は機械的で冷たかったんだ。
あたしはなんだか、紺君のその、『全てがどうでもいい』ような態度が、ショックで、寂しくて、暗い気持ちになった。
紺君を取り巻くすべてのものに、人に、無関心な瞳。
周りの人はみんな紺君が好きなのに、紺君自身は周りの人に興味が無い。そういう風に感じることは、出会ってたった3カ月にも満たないけど、何回かあった。
その度にあたしは、なんだか暗い気持ちになっていた。
だから、つい、聞いてしまったんだ。
「欲しいものが何も無いって…、なんでそういう風に思うんですか?」
「衣食住困ってませんし、他に何かありますか?」
「そういうことじゃなくて、何か趣味とか…、関心があるものとか、プレゼントされたら嬉しいものとか、ないんですか?」
「誰かに何かを貰うこと自体迷惑です。何も返せないし、反応もできないし、第一欲しいものが無い」
「それって、何にも興味が無いってことですか…?」
「…誰かに迷惑かけてますか?」
「!」
―――つい、かっとなって、紺君を睨んでしまった。
でも、紺君の、ロボットみたいに冷たい瞳を見たら、何も言葉が出てこなかった。
多分、今、彼の瞳にあたしはうつっていないだろう。
じゃあ、紺君は、店長にも、あゆ姉にも、光流君にも、この店にも、彼女さんにも、関心が無いってことなのかな。
ただ、生きるためだけに働いているのかな。
それって、どんな風景なんだろう。
紺君の瞳に、この世界は一体どう映っているんだろう。