僕らが大人になる理由


努力しなくても、人に好かれて。

愛され体質ってやつ?

とくに何もしなくても、自然とまわりが合わせてくれて、人生上手くいくタイプ。

無口な分、ちゃんと意味のあることしか言わないから、色んな人に信用される。

そのくせ人に嫌われるのを恐れていない人。



まるで俺とは真逆だ。


愛想ふりまいて、人に好かれることが快感。

良い人ぶってる自分に酔ってる。


人に嫌われることが怖いから、


俺のこと好きな奴は皆大好き。

俺のこと嫌いな奴は皆大嫌い。



「…真冬は、紺のどこが好き?」

「えっ、そんなこと急に言われても」

「答えらんない? それとももしかして全部好きとか言っちゃう? 寒いね」

「っ」

「それって、超寒いよ?」


あ、だめだ。

なんか今の俺、やばいかも。

いつの間にか真冬に八つ当たりしている自分に気が付いた。

真冬は、驚いた表情のまま、俺を見つめていた。


「…あー、なんかもう、辞めようかな…バイト」

「ひか」

「なんかもう、だりいし」


俺はそう呟いて、真冬を置いて去った。


―――『真冬は光流を好きなんだから、もっとちゃんとよく見てあげて』。


紺に言われたあの言葉が、地雷だったと今気づいた。

もっとちゃんと見る?

   、、、、
誰かにちゃんと見られたことのない俺が、誰かをちゃんと見るなんて、無理な話だ。
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