僕らが大人になる理由


『光流?』

「…おう」

『せめてシフト表は出してください。困ります』

「…じゃあ、来週は全部出ない」

『…分かりました。じゃあ、そう伝えておきます。』

「店長に?」

『………ライター。光流の、置きっぱなしでしたよ。取りに来てください。今すぐ』

「は?」

『今すぐだ』


ブツっと音を立てて、電話が切れた。

あーあ。久々に出たよ。俺様ロボ紺。

ああいう時の紺ちゃんは、若者で言うブチ切れ状態か、冷めきって冷静なときか、本気で心配しているときのどれかだ。

あれに反抗したら、多分、俺はもう完全に紺ちゃんに見捨てられる。


俺は頭をガシガシと掻いて、1000円札を置いた。


「あたしよりかわいい子?」

「泣きぼくろがセクシーな子」

「えー何それー」

「ごめんねー?」


駅から歩いて10分。

飲食店街から少し外れたところ。

久々に歩く路地裏の細い道。

たった一週間いってないだけなのに、どうしてこんなに緊張するんだろう。


そもそも、一体どうしてこんなにすねていたんだろう。

いつも通り沢山の女の子とデートして、沢山の女の子に愛されて、沢山の女の子を抱いて。

何一つ変わっていない日常。満ち足りすぎてる日常。


『お前さ、俺のどこが好きなの?』


…なのにどうして、あんなことを聞いたのだろう。



「お前さ、俺のどこが好きなの?」

「!」

「って聞かれちゃってさー、光流君ってああいうこと聞くとは思わなかったからびっくりしちゃったー」


下におりる前に、休憩室で着替えをとってこようとドアを開けた瞬間、女の声が聞こえた。

自分の話題だと気づいた俺は、部屋に足を進めることをやめた。
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