僕らが大人になる理由
店長なら何があったのか知ってるのかもしれないと思って、二人で店長をじっと見つめていると、店長はウィンクをした。光流君は反射的に「おぇ」と声を漏らした。



「…俺が思うに」


光流君が小声で言った。


「彼女と…由梨絵ちゃんとなんかあったんじゃないかな」

「えっ」

「もう二年経つしな…倦怠期ってやつか、浮気か…喧嘩はあり得ないな。紺ちゃんは由梨絵ちゃんには絶対怒らないから」

「そ、そうなんですか…」

「由梨絵ちゃんの言うことなら何でも聞くからね、紺ちゃんは。俺が言うのもなんだけど、普通の恋人同士じゃないっていうか…服従関係というか、深い情が絡んでるような…」

「情…」

「あーー、やっぱやめよ、紺ちゃんが一番嫌がるのは、自分のことを裏で詮索されることだから」

「……」

「今日は、はやあがりだし、ツタヤでも寄って紺ちゃんの好きそうなDVD借りてこようかなー」


その言葉を聞いて、なんだか胸があたたかくなった。

光流君は、本当に紺君のことが好きなんだなあ、って。

由梨絵さんのことは気になるけど、本人には聞けないし、だからといってここでとやかく話すのも無意味だ。

あたしは、とりあえず仕事に集中すべく、手を動かし続けた。

それでも頭の中は紺君とその彼女さんのことでいっぱいだった。



2年間付き合うって、長いのかな。

あたしは誰かと付き合ったことがないから、わからない。

そういや昔、2年間交際経験のある女友達の話を聞いたことがある。

もうときめきがないとか、キスしても何も感じないとか、飽きたとか…さんざん愚痴を言っても、でも、結局は“情”があるから別れられないと嘆いていた。




情って、一体なんなんだろう。

それは、人を好きという気持ちとは少し違うの?

恋愛感情は、いつしか、情になってしまうの?




それが恋の結末なら、行き着く場所なら、

恋とは、とても途方もなく、きりがなく、ゴールの無い虚しいものだと、思った。


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