未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
ついに俺は小松とキスをした。それは嬉しい事だ。しかし……


何かおかしい。キスはしているはずなのだが、何と言うか、少しもおもしろくない。例えるなら、まるでマネキン人形にキスしているような感覚。あるいは外人がするような挨拶だけのキス。した事はないが。

顔を離して小松を見やれば、彼女は目を閉じたまま、口も真一文字に閉じていた。


「目を開けていいぞ」

「は、はい」


小松はその大きな目を開くと、眩しそうに俺を見た。


「小松。おまえさ、俺をおちょくってないか?」

「え?」

「何かのジョークか?」

「…………?」


小松はキョトンとした顔で俺を見つめるばかりだった。てっきりふざけてるのかと思ったが、そうではないのだろうか。だとすると……


「まさか、男とキスした事がない、なんて言わないよな?」

「ないです」

「なに?」

「今のが私のファーストキスです」

「……嘘だろ?」

「嘘じゃありません。二十歳にもなって、おかしいかもしれませんけど」


小松はしっかりと俺の目を見て、真顔でそう言った。とても嘘とは思えない。しかし……


「そんなバカな。だって……」

「はい?」

「ん……」


“おまえには恋人がいるじゃないか。伊達政宗という男が”

そう言おうかと思ったが、言えなかった。というか、言いたくなかった。

俺はあの男の事に触れたくないし、出来る事なら存在自体を忘れたかった。そして、小松にもそうしてほしかったのだ。身勝手だし、まやかしに過ぎないのだが……


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