未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「他の人はともかく、君には別の呼び方をしてほしいんだよね」

「はあ。では何てお呼びしたらいいんですか?」

「ん……そうだね……」

「“お坊っちゃま”ですか?」

「いや、それは止めてもらいたい。それこそ、僕はもう……」

「“子どもじゃない”ですよね?」

「そう、その通りさ」


したり顏のメイドに、俺は思わず顔がニヤけてしまった。この子は頭の回転が良く、ユーモアもあるようで、それが嬉しかったのだ。


「普通に名前で呼んでもらえるかな?」

「はあ」

「僕の名前は……」

「存じてます。信之さま、とお呼びすればいいんですか?」

「知ってたか。うん、それでいい。しかし僕は、悪いんだが……」

「本多小松と言います」


“君の名前を知らないんだよね”と言おうとしたら、それよりも早くメイドはその名を告げた。


「小松……?」

「はい」

「ずいぶん古風な名前なんだな?」


つい口が滑ってしまった。メイド、いや小松は、例によってまた口を尖らすだろうな、と思ったのだが、


「よく言われます」


しれっとした顔でそう言った。怒ってなくて良かったなと思う反面、あの顔が見られず残念だったけれども。

< 17 / 177 >

この作品をシェア

pagetop