未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
相当重症だなあ、と俺は思った。妄想、あるいは虚言癖だろうか……


「ビックリしたでしょ?」

「それはまあ、そうですね」


俺が気のない返事をすると、女性は再び布団から顔を出した。


「ちょっと、あなた……私の話、信じてないでしょ?」

「え? い、いいえ、信じてますよ?」


もちろん信じてなんかいないが、逆らうと女性が興奮すると思い、作り笑いを顔に浮かべて俺はそう答えた。


「うそ、信じてないわ」

「そんな事は……」

「ううん、そうに決まってる。でも無理ないと思うわ。タイムスリップなんて、そうあるものじゃないもの」


“そうある”も何も、そもそもあるわけないんだって……


「どうしたら信じてもらえるかなあ……」


そう呟くと、女性は何やら考え込む仕草をしたが、少しすると「あ、思い出した!」と小さく叫んだ。


「明日はバレンタインよね?」

「えっと……そう言えばそうですね」

「毎年、あなたは女性の使用人達からチョコを貰うわよね?」

「確かに貰いますが、よく知ってますね?」

「当たり前でしょ? 私はあなたの妻なんだから……」

「ああ、そうでしたね」


と言ったものの、もちろん女性が未来から来た花嫁だなんて俺は微塵も思っていない。としても、俺の事に詳しいのは確かだなあ……

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