未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
女性は布団を被り、顔を隠してしまった。


「何やってるんですか? 顔ぐらい出してくださいよ」

「イヤ。見られたくない。あなたの記憶から私の顔を消してください」

「いや、そう言われましても……」


記憶というものは、消せと言われて消えるものではないと思う。むしろ消そうと意識すると、余計鮮明になってしまうのではないだろうか。


「どうしてそんな事を言うんですか?」

「未来が変わるからよ」


その女性は毅然とそう言い切った。布団の中からではあるが。


「そんな、大袈裟な……」

「大袈裟じゃないわ!」

「はあ?」

「分からない? 私があなたの何なのか。あなたの未来に、私がどれほど深く関わる存在かを……」


女性はますます大袈裟な事を言った。


「さっぱり分かりません」

「私はね、あなたの妻なのよ?」

「はあ?」


“妻”と聞こえたようだが、何かの聞き違いだろうか。


「今のあなたにとって、私はさしずめ……」


もったいつけたのだろうか。女性はそこでいったん言葉を切り……


「未来から来た花嫁なのよ!」


と、叫ぶように言った。

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