未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「その前に、君にちょっと頼みがあるんだが、いいだろうか?」

「どんな事ですか?」

「それはね……」


俺は兼続のある言葉を思い出し、それを小松で試してみようと思ったのだ。その言葉とは……


「僕の事を、その……“ご主人さま”と呼んでみてくれないかな?」

「はあ?」


途端に小松は、いかにも呆気に取られた、といった顔をした。実に表情が豊かな子だ。

確か兼続はこう言ったはずだ。

『若いメイドから“ご主人さま〜”なんて呼ばれたら、誰だって萌えるさ』

とかなんとか。それを実際に試してみたいと思ったのだが……


「もう、信之さまったら……」


なぜか小松は目を細め、俺を蔑むような顔をした。


「嫌か? 嫌ならいいんだ。忘れてくれ」


小松の反応に、俺は慌ててそう言ったのだが……


「いいですよ。やってあげます。私も一度してみたかったから。そういう、メイドカフェみたいな事」

「メイドカフェ?」

「信之さまもお好きなんですね?」

「メイドカフェがか?」

「はい。男の人って、みなさんお好きですもんね?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。そうじゃないんだ。今日、人から聞いたんだよ。そういう所があるって。俺は初めて聞いたんだ」

「“俺”ですか?」

「あ、いや、僕」


俺はつい“俺”と言ってしまい、慌てて“僕”と言い直した。兼続以外の相手には“僕”と言うようにしているのだが、はずみでつい“地”が出てしまったようだ。

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