未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
そして小松は素早くその部屋に入り、ドアはすぐに閉じられた。


男、かあ……

嫌な予感が当たってしまった。まさか、という思いもあったのだが。


いや、待て。そうと決め付けるのはまだ早い。あの男は小松の兄か弟、つまり兄弟かもしれないじゃないか。弟がいる、というような話を聞いた気もするし。

俺はある事を確かめるべく、その部屋の前まで行った。そして、ドアに貼られた表札を見た。そう、男の苗字を確かめようと思ったのだ。もしそれが“本多”なら、あの男は小松の兄弟か、もしくは親戚という事になる。


それを願い、あるいは信じ、すがる思いで見たのだが……

“伊達”!?

表札に記されていたのはその二文字だった。“本多”ではなく。

という事は、あの若い男は小松の兄弟ではなく、親戚でもないと考えるべきだろう。つまりはボーイフレンド、あるいは……恋人。そう考えるほかない。


小松は俺に嘘をついたのだ。恋人はおろか、ボーイフレンドすらいないと。小松がやたらと人目を気にしていたのは、その事の証しに他ならない。


だが、解せない事もある。それは、なぜ小松は俺にそんな嘘をついたのか、だ。何のために?

ああ、そうか。信じがたいが、理由はそれしか考えられない。つまり、小松は俺に取り入ろうとしているからだ。俺に気に入られ、愛人か何かになりたいのだろう。そんな素振りは全くなかったけれども、それだけ役者という事か。


“可愛さ余って憎さ百倍”ではないが、俺の中で小松への思いは急激に変化していった。

屋敷へ向かってふらふらと歩く俺は、小松への複雑な思いと、肌を刺すような寒さで、泣きたい心境だった。

< 79 / 177 >

この作品をシェア

pagetop