未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
後ろから見ると、小松はコートの襟を立て、顔を隠してるように見えなくもない。単に寒いからで、俺の考え過ぎかもしれないが。

ところが、すぐにそうでもないと知った。なぜなら、細い路地に入る瞬間、小松は首を左右に振り、辺りに目をやったのだ。俺は咄嗟に自販機の後ろに身を隠したけれども。


怪しい。実に怪しい。小松は明らかに人目を忍んでいるが、何のためだろう。

嫌な予感が、しかも俺にとって最悪の事態が起こりそうで心が折れそうになり、尾行はもうやめようかとも思ったが、それでは後あと悔いが残りそうだ。それよりはこのまま尾行を続け、最後まで見届けた方がマシだと思う。たとえ残念な結果になったとしても……


そう思い、小松が入って行った細い路地に俺も入って行った。小松に見つからないように注意しながら。

すると小松は、ある建物の扉の前に行き、そこで立ち止まると呼び鈴を押すような仕草をした。そして、再び周囲をキョロキョロと見た。もちろん俺は物陰に隠れていて、小松に見つからないようにしていたが。


その建物は、たぶんアパートだと思う。その一階のある部屋を小松は訪れたわけだが、その部屋にはいったい誰が、あるいはどんな人物が住んでいるのだろうか……


固唾を飲んで見ていたら、やがてドアが内側からスッと開き、同時に人が現れた。その人物は背がひょろっと高く、片目に眼帯をした若い……男だった。

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