未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
少しの沈黙の後、「残念ですが、それでは……」と言って菊子さんの父親が腰を浮かせかけた。兼続の調査結果、つまり菊子さんの素行の悪さについて、父親には思い当たる節があるのだろう。これで穏便に事は済む、と思ったのだが……


「わたくしは納得できません」


それまで大人しく、しおらしそうにしていた菊子さんが声を張り上げた。当然ながら、みんなの目は一斉に彼女へ向けられた。


「ぜひ信之さまと二人だけで話をさせてください」


菊子さんは立ち上がり、俺を睨みつけてそう言った。目はつり上がり、怒りに燃えている。ついに本性を表した、といったところか。やはりそう簡単には引き下がらないか……


「いいですよ。では、他の方々は外していただけますか? ただし……慶次は残ってくれ」

「えっ? なんで?」

「いいから残れ。それと、おまえもな?」


横の小松に言うと、小松は観念したように小さく頷いた。


「わたくしは信之さまと二人だけで、って言いましたよね?」

「いいえ。この二人もいた方が話は早い。それは、あなたもよくご存知のはずです」

「…………」


さすがにそうはっきりと言われては、菊子さんに返す言葉はないようだ。母達は、俺の思わせぶりな言葉に首を捻りつつも、応接間から出て行ってくれた。


「では話してください。どう納得できないのかを……」


広い応接間に4人だけとなり、すぐに俺はそう切り出した。菊子さんは、自らの企みがバレた事を察知したからか、先ほどの強気な態度はどこかへ行き、しきりに目を泳がせていた。

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