未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「お待たせしてすみません」


応接間へ行くと、既にみんなが揃っていた。菊子さんをはじめとする浅井家の人々と母、そして叔父夫婦。なぜか今日は慶次もいた。ソファの中央が空いており、俺はそこへおもむろに腰を降ろした。脇に小松を従えて。


「信之さん、その子は……?」


すかさず母が怪訝な顔で言った。


「いいんです。気にしないでください」

「…………」


いつになく毅然な俺の言葉に、母はムッとしながらも言い返さなかった。


「菊子さんと私の婚儀について、この一週間考えましたが……」


そう俺が切り出すと、みなが一斉に息を飲んだ。そして、


「申し訳ありませんが、ご縁が無かったという事で……」


と、予定通りの言葉を告げ、菊子さん達に向かって深々と頭を下げると、「え?」とか、「そんな……」といった呟きが、あちらこちらから聞こえてきた。


顔を上げると、みんなが俺を見ていた。驚きや戸惑い、あるいは怒りなどを顔に浮かばせて。


「信之さん、菊子さんのどこが不満なの?」


あたかもみんなが聞きたい事を代弁するかのように、俺の隣に座る母が問いかけてきた。向かいに座る菊子さんのご両親も、苦々しげに俺を見て、俺の言葉を待っているようだ。


「それは申し上げない方が良いと思います。単にご縁が無かったという事にした方が、今後のためには良いでしょう。浅井家ならびに真田家の両家にとって……」


俺は、菊子さんが慶次や小松と共謀した企み、あるいは兼続が調べた菊子さんの好ましくない調査結果を公にする気はなかった。もしそれをしたとすると、たちまち修羅場と化すだろう。俺はそれを望まないし、後の計画に支障が出て都合が悪いのだ。

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