Candy of Magic !! 【完】
Fall of First Grader !!

学園祭一日目



「いざ、祭りに出陣じゃ!」

「でもさ……恥ずかしいよこれ……」

「いいじゃん!似合ってる似合ってる!」



今日と明日は待ちに待った学園祭!夏休みもあれから何事もなく終わって、学園祭当日となった。

なんとか私のガラス細工の龍も完成して、部室に展示されている。アラン先輩はやっぱりマナの犬だった。完成品を見て満足そうに頷いていた。

そして、今はクラスの企画に参加中。人探しってやつで、私は来場者に話しかけられたら台紙にスタンプを押すのだ。五人集めると景品と交換。景品は主に缶ジュースで、オレンジとかグレープとかリンゴとか、私も欲しいなとついつい思ってしまった。

それで、私はただいまコスプレ中。何に変身しているかと言うと……よくあるパターンだよ。

メイドだよメイド。隣にいるユラはフェアリーだね。透明な丸い羽を背中につけて、先っちょに星がついてるステッキ持ってる。ユラはそれでも可愛いから許せるんだけど……私は自分が許せない。

フリフリレースのスカートに、フリルのカチューシャ。とにかく恥ずかしい。廊下を歩いてるから目立つ目立つ。

ほら、今二度見されたよ……もうヤダ。



「なんで私がメイドなの?」

「仕方ないじゃん。くじ引きだったんだから」

「ハズレでしょ……」

「なーに言ってんのよ!アタリに決まってるでしょ?」

「絶対ハズレだって……」



探される方よりも探す方をやりたかったな……もう無理だけど、あのジュース欲しい!

実は、ソウル君もくじ引きに当たり、その彼は今目の前にいる。でも一瞬後ろ姿だけじゃわかんなかった。



「ソウル君……?」

「あ、おまえらか」

「プッ……アハハ!ぜんっぜん違和感ない!アハハハハ!」

「笑うな!」



ソウル君は顔を赤くさせて怒った。それもそのはず……ソウル君は女装をしているのだ。カツラの助けもあって全然違和感が感じられない。

怒るソウル君とお腹を抱えて笑うユラに、そこにいたヤト君が冷ややかな視線を送った。



「静かにしろよ。もうすぐ開門だろ?」

「あ、カウントダウンするんだっけ」

「空気読め」

「ごめん……うるさいってさ、ソウル」

「てめっ……人のせいにするなよ」

「あっ、ごー、よーん、さーん……」

「「にー、いーち……」」



アナウンスがちょうど流れて一緒になって数える。声の主はソラ先輩。朗らかな声がスピーカーから響く。

少しの間の後、歓声が沸き上がった。



「「「「ぜろ!」」」」

「よし、バラバラになりましょ。これじゃ商売上がったりだわ」

「えー……ユラと歩けないの?」

「当たり前でしょ?そのうち会うわよ。それに今日だけだし」

「うん……」

「ヤトが一緒に回ってやれば?生徒会で何かあったとき二人ですぐに向かえるしな」

「おまえには奢ってもらわないと困る」

「ゲッ……忘れてた」



この奢るって言葉、最初はお金関係のことだと思ってたんだけど……違ったみたい。

代わりに並べ、って意味だったみたい。つまり、食べ物とかって行列になりやすいじゃない?そのときに代わりに並んでもらって、本人はぶらぶらと歩けるのだ。

走らないパシリ、みたいな……

気の毒だ。



「そっちの方が商売上がったりじゃねーかよ!ターゲットが並んでるんだからな!」

「却下。行くぞ」

「はあ……」



ヤト君はソウル君を強引に引っ張って廊下を歩いて行った。ユラがその並んでいる姿を見てふふっと笑みを漏らす。



「こうやって見るとカップルにしか見えないね」

「確かに……」

「制服のスカート履いてるし、隣には王子がいるし……絶対に間違われるよ。それじゃ、あたしも行くね」

「……うん」



バイバイ、と手を振る。明日は一緒に回ろうと固く決意した。ひとりでメイド姿で練り歩くなんて羞恥の極みだよ。罰ゲームとしか思えない。

チラチラと二度見されてはため息を吐きたくなる。誰か知ってる人通ってよ!ひとりは恥ずかしいんだって!

ぶらぶらと廊下を歩いていると、学園祭を満喫してるスバル君に遭遇した。手にはたこ焼きやら唐揚げやらが収まっている。



「こら!食べ歩き禁止だよ?」

「あっ!ミクさん……メイドをやってるんだね」

「そうだけど……これからどこ行くの?」

「部室に。アン先輩にたこ焼き買って来いって言われたんだ」



本物のパシリがここにいたー!どうやら唐揚げは自分のためにちゃっかり買ったらしい。五個で100円だったんだ、と目を輝かせている。

うん、確かに安いね。



「えっとね……部室までついて行ってもいいかな?ひとりで歩くの恥ずかしくってさ」

「どうぞどうぞ。メイドと歩けるなんて光栄だな」



スバル君は能天気にそう言ってのけると、まだ湯気のあがっている唐揚げとたこ焼きを持って歩き出した。たこ焼きにかかっている鰹節がゆらゆらと揺れている。

……私も後で食べようかな、たこ焼き。



「あ、お客さん増えて来たね」



スバル君の言葉で初めて気づいた。制服に混じって老若男女問わず学校周辺に住んでいる一般人がちらほらと。

エネ校の生徒はまだ到着していないらしく、あの独特な雰囲気の他校生はいない。


そろそろ、私の出番も近いかな?



「お母さん!あそこにメイドさんがいるよ!スタンプスタンプ!」

「はいはい待ってねー」



小さい女の子がお母さんらしき人の手を引いてこっちに近づいて来た。

私はポケットを探ってスタンプがちゃんと入ってるか確認した。そして、女の子がひらひらと手にしている台紙にスタンプを押してあげた。

女の子は私ににこりと笑いかけて、ありがとう!と元気よくお礼を言ってくれた。その無邪気さに自然と微笑む。



「お母さん!次は?」

「次は……妖精さんだね」

「よーし!行こう!」

「はいはい」



慌ただしくお母さんは女の子に連れられて、人混みの中に消えて行った。スタンプをポケットに戻す。

次はユラか……



「順番なんてあるんだね」

「そうだよ。だからずるしようとして順番を飛ばしてる人がいたらスタンプを押しちゃいけないんだ」

「へえ……僕は全然クラスのやつに関わってなかったから知らないな」

「仕方ないよ、ガラス細工で忙しかったんだから」

「あと、夏バテでどうも調子が悪くてさ……なかなか保健室から出られなかったよ」

「たいへんだったんだね。私は校門の看板作りとか、クラスのやつとか、ガラス細工とか、とにかく忙しかったよ」



看板は絵を描いたり色を塗ったりして、クラスは衣装のサイズ合わせ。手芸が得意な女子が数人いて、その子たちに衣装は作ってもらったんだ。見事な出来映えだけど、私には少し派手すぎたかも……

生徒会の仕事は、その看板作りと予算の会計。赤字にならないか、どれぐらいをノルマにすればいいかって電卓をひたすら打って集計したんだ。ルル先輩とリト先輩と協力してなんとか出せた。

ルル先輩は会計だけど、書記のリト先輩に細かいことは全部任せてたからあんまり働いてなかったけどね……


スバル君に何をしていたのか話していると、いつの間にか部室に着いていた。中に足を踏み入れる。



「アン先輩ー。たこ焼き買って来ましたよ」

「あ、サンキュー!……えっ!もしかしてミクちゃん?!」

「は、はい」

「可愛い!似合ってる!あたしもメイド服着たいわー」

「声がデカいぞ」

「あら、アラン。どうどう?ミクちゃんのメイド服姿。可愛くない?」

「……まあ、な」



先輩はそれだけ言うと部室の奥に引っ込んでしまった。黒い幕でしきりを作って、部員のスペースを確保したところだ。

アン先輩はやけにニヤニヤとしながら呟いた。



「素直じゃないわね」

「先輩!僕にもたこ焼きくださいよー」



そのスペースからひょっこり顔を出したのはナイ先輩。匂いを嗅ぎ付けて来たのか、ふんふんと鼻をたこ焼きに近づける。

でもアン先輩はあげるつもりはないのか、ひょいっと遠ざけて爪楊枝に刺してパクッと一口食べた。

んんー!と美味しそうな顔をする。それを羨ましそうに眺めるナイ先輩。



「……スバル、唐揚げくれよー」

「あげませんよ。自分で買って来てください」

「今行ったって混んでるに決まってんじゃん!スバルはタイミングが良かっただけだよーだ」

「嫌ですよーだ」

「先輩に向かって生意気だぞ!」

「先輩に思えませんね」

「くそう」




ナイ先輩は唇を尖らせて拗ねた。そんな先輩を見てスバル君は苦笑い。仕方ないから一個あげていた。ナイ先輩は幸せそうに食べている。



「はい、20円になります」

「ちょ、お金取るの?」

「嘘です嘘です。そんなに嫌な顔しないでください」

「人でなしーって言おうと思ってた」

「後輩に人でなしって言う先輩の方が人でなしのような気がしますが」

「気にしなーい気にしない」



ナイ先輩は軽く答えると、一個だけじゃ物足りないと買いに行ってしまった。それならあげる必要なかった……とスバル君は残念そうに肩を落とす。


そのとき、やつがやってきた。



「ミクー!会いたかったぞー!」

「お、お兄ちゃん?!いつの間に?」

「さっき着いたんだけど、真っ先にやってきたのさ~」

「は、離して!」



やつ、とはお兄ちゃんのこと。腕を私の肩に回してぎゅっと抱き付かれる。他のお客さんが何事かと振り返ったので、すみません……と謝ってからお兄ちゃんをどんっと突き放した。

お兄ちゃんは不服そうに拗ねている。



「可愛いメイド姿なのに、優しくない」

「場をわきまえてよ。私は生徒でお兄ちゃんは他校の先生なの!問題なの!」

「愛があれば問題ないよ」

「そういう問題じゃなくって……」



お兄ちゃんはそういけしゃあしゃあと言った。私はため息を吐いてうんざりとする。

お兄ちゃんの場合溺愛だからなあ……



「……トーマ、離れてあげなさい」

「あ、お父さんだ!お父さん!」



私はお兄ちゃんの後ろから現れた男性に抱き付いた。大好きなお父さん。いつも傍にいてくれたお父さん。

そんな私の頭を右手で撫でながら久し振りだな、と呟いた。でも、周りの人はお父さんの左半身に注目してざわめいていた。

なぜなら……左腕が無くて、袖が不自然に垂れていたから。
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