悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~


「頂きます」



両手を合わせて、
いつものように言葉を唱えて祈りを捧げると
ゆっくりと朝食に箸を伸ばしていく。



その隣、
飛翔も同じように朝食を食べてた。




「この子ったら、
 早朝いきなり帰って来たのよ。

 神威君の入学式には、
 おばさんがしっかりとついて行こうと思ってたのに
 この子が付き添うんですって。
 
 残念。

 病院、半日抜けてきたみたいよ」



食事が終わると、
洗面所で歯磨きやら身だしなみを整えて、
ゆっくりと早城の家を後にした。

 


地下の駐車場に続く、
エレベーターへと乗り込む。


スーツを着こなした
アイツ。



地下駐車場。



いつものように、
自分の仕事用の愛車に
乗り込もうとしていた飛翔に
手の中の鍵を放り投げる。








「なんだ?」




反射的に受け取った
その鍵を見つめる。




「あれか?」



視線の先には、
その鍵を使うべき車。




「好きに使ってよ。

 徳力の社用車として
 手配したけど、
 飛翔の車だから。

 今の通勤用のベンツ、
 もうかなり乗ってるだろう」




白のベンツを挟んで
そんなやりとり。


当初は、
びっくりしたような顔を
していたアイツも、
気を持ち直したのか
すぐに表情を変えた。


手慣れた手つきでドアを開けて
車に乗り込むと、
エンジンをかけて即座に
動かす。





車内に流れるのは洋楽。




アイツの運転する助手席に
乗り込んで、
暫しの時間、車窓を眺める。





マンションから車で、
20分くらいした頃、
目的の場所についてらしく、
懐かしそうな目で、周囲を見渡す飛翔。





「懐かしい?」

「あぁ。
 変わってないな。ここは。

 変わったのは……
 学校の名前だけか……」




しみじみと
噛みしめるように呟いた。





飛翔たちが通っていた時代、
この学校の名前は、浅間(あさま)学院。



そして、一昨年より
学院名が改名されて、
香宮(こうみや)学院となった。





香宮学院。



大きく綴られたプレート。

その門を車で潜って、
ゆっくりと、
駐車場へと向かうと
飛翔は車を止めた。





「理事長室、行くぞ」




その言葉に連れられて、
飛翔の後を追いかける。


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