悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~

8.守りし意義 陸奥の思い出






山辺に流れ込む水は、
徐々に勢いを増し始める。


芽吹いた命が、
水の中に姿を消していく。


流れ込む水に、
時折足を取られながら
山辺の何処かに居るだろう
アイツの姿を必死に探す。





「陸奥っ!!
 何処にいる。

 返事しろ」




そんなことを叫びながら、
更に山辺の奥へと入っていく。





白衣が黄土色へと
染まっていく。






確か……この辺り。



ここに……旧村役場があった。





陸奥?





……そうか……っ。



アイツは、
陸奥村長の孫……。




山辺を徘徊しながら、
辿りついた記憶を手掛かりに
陸奥の家があった
付近へと足を延ばしていく。





っと言っても……そこは、
土砂に埋もれて家なんて存在しない。






だけど……
アイツはそこに居た。


土砂の奥をただじっと見つめながら
その場で立ち尽くしていた。







「おいっ。
 
 陸奥、何やってる。
 早くあがれ」





声をかけながら駆け寄って
陸奥の肩をガシっと掴みとる。




俺の手を振り解いたアイツは、
転校初日の、
憎むような視線を俺に向けた。




「生神が今さら、何しに来た。
 何もしてくれなかった……。

 あの日、出来なかった贄の務めを
 今、ここでしてくれるのかよ?

 この場所には、まだ祖父ちゃんも
 親父もいるかも知れない……。

 何で、守ってくれなかったんだよ」




陸奥の悲痛な叫びが、
流れ込む音の洪水の中で
一際、大きく感覚を刺激していく。



その音の衝撃に、
心が傾いだ途端、
体制を崩し、
慌てる俺に陸奥はさらに言葉を続けた。



「俺は……ここに留まる。

 この場所が、俺が育った場所で
 ここがずっと故郷だ。

 故郷を奪われる気持ちが、
 お前なんかにわかるかよ」



叫びながらも、自ら水に足を取られて
倒れ込む陸奥。


そんな陸奥の傍に何とか、
辿りつくと俺は何も告げずに
陸奥を起こして、
頬を一発殴った。
 
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