悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~


「言葉を返す。

 背負う荷の重さを知らずに、
 その命の重みを軽々しくとらえる
 お前に何が出来る。

 ただの自己満足だけだろ。

 
 生神は、生贄になる存在じゃない。

 大切な存在を守るためこと。
 それが生神の本来の意義だ。

 俺の親父もお袋も、
 村の為に死んだわけじゃない。

 俺の為に、
 自らの命を絶ったんだ。

 真の意味も、その重荷も、
 罪も何一つ知らないヤツが
 軽々しく口にするなっ!!

 
 お前がそこで死んで、
 そこに眠る親父らは、
 喜ぶのかよ」





一言一言、
自分の言葉を語るたびに
自らの過去の重さが
自分の心に突き刺さっていく。






俺は……
俺を守ってくれた親父とお袋を
受け継いで……
地球(ほし)の声を継ぐ。




俺が本来、やるべき役割の
存在意義を今はただ全うする。





その中には……
安部村のヤツラ、
全ての命を守りきること。


俺の手が届く範囲は、
全て守りきる。





それが……今も生神として
生き続ける俺が、
自身に科した守りし意義。







「ほらっ。

 おまえがそんなだから、
 水がこんなに
 溜まっちまっだろうが」






すでに膝上に届くような形で、
水位が上がってきている
その場所で、
ゆっくりと手を伸ばすと
心を決めたように、
陸奥は俺の手を握り返した。





一気に引き上げると、
山辺の入口を目指して、
ゆっくりと歩きはじめる。




足を取られて、
思うように動けない。



汚れた水は、足元を隠し
水は体力を徐々に奪っていく。




上流から勢いよく注ぎ込まれる
水の勢いは、やがて
俺と陸奥の体を押し流すようになり
足元がおぼつかないまま、
お互いを必死に掴みあって
その場所を目指す。




< 39 / 104 >

この作品をシェア

pagetop