悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~


徳力の当主には、
もう一つの意味があった。



災害から村を守るための贄(にえ)。

人柱(ひとばしら)の任を抱いた存在。


それ故に、村人たちは
徳力総本家の一族に背くことはない。


村人たちの暮らしを守り続けるための
生贄であり、
生神(いきがみ)でもある存在なのだから。


その日の為に、
礼儀を尽くし続ける。



そんな土地ならではの風習が
今も根強く残る故郷。



その土地にその家の者として生まれたからには、
いつか……母や父のように、
俺も村の為に
この命を捨てることが当然なのだと思ってた。



九年前の水害。

その日、土砂崩れの犠牲になった者たちが
多くの命を落とし、行方不明となった。


その災害が起きたのは、
神様が怒ったから……。



飛翔に寄って知らぬ間に、
村から連れ出された俺の元に
贄としての務めを要求しに来た村人たち。



ただその務めを運命として
受け止めることしかできなかった俺は
病院を抜け出して、故郷へと戻った。




このまま海の藻屑と朽ち果てるだけだった俺を
その宿命から奪い返して、
今の居場所を守り通してくれた存在が
当時、俺が憎み続けていた
親父の弟、飛翔だった。



飛翔より助け出された俺は、
当主後見役・徳力華月(とくりき かづき)の承諾の元
飛翔が住んでいた、父さんから託されていた
飛翔が生活するマンションの
最上階へと生活スペースを移した。


その後、後見役の勧めで
『神前悧羅学院悧羅校』へと編入。



今も俺は、エスカレーター式の
その学校に通いながら、
飛翔・華月そして、
サポート役の万葉(かずは)と共に
村と村人たちの生活を、
生きて守り続けてきた。







あの日、その場で命を落としていたことを思えば、
生き続けた九年間は、険しすぎる時間。



高校一年生への進学を間近に控えたこの四月。




ようやく当主としての役割が自分の中で
構築できるようになった。



その矢先に決定された、ダム建設の承認。


一度下された決定事項は、
今の俺では、どうすることも出来なかった。






ヘリはゆっくりと、
総本家の敷地内にあるヘリポートへと
着陸してそのエンジンを止めた。




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