悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~










目が覚めたとき、
見知らぬ部屋に居た。



ただ……暗闇に視界が慣れた頃、
その場所が、
何処かの病室らしいことだけは
理解できた。





「ご当主。
 気が付かれましたか?」



ゆっくりと俺を覗き込むのは、
後見の華月。



そして……万葉(かずは)。





「陸奥は?」



声にならない声で、
問いかけた質問に
にこやかに微笑み返した
万葉が、その場を去り
暫くして、陸奥を中へと連れてきた。


その後ろには、
飛翔の姿。






目を閉じるだけで
何処まで意識が落ちてしまいそうなほどに
体の重さを感じる。





「当主……」



そのまま、その場で俺を呼んで
動けなくなった陸奥を、
華月と万葉が病室から連れ出した。




「どうだ?」



病室の灯りをつけて、
ベッドサイドに
腰を下ろした飛翔の手が
俺の今の状態を確認するように
手首に触れる。


やがて視線は、
心電図のモニターへと向けられた。



「少しは落ち着いたか……」




ゆっくりと現状を把握すべく
質問を投げかける。




「ここは?」

「神前大学付属総合病院」

「俺は?」

「山辺で水を切り裂いて
 意識不明で倒れた。

 1分以内に蘇生はしたが、
 一時は心停止もした。

 ゆっくり休め」





返された飛翔の言葉に、
戸惑いを通り越して固まる。





俺が……心停止?





「刀は?」




確かに……
左の掌から生み出した。





「意識を失った途端消えた。

 話すな。
 今はもう少し寝ろ」



俺の質問を止めようとする飛翔に
あと一つだけっと
強引に最後の質問を投げかけた。



「何日すぎた?」

「13日」



飛翔はそれだけ伝えると、
病室の灯りを消して、
ゆっくりと部屋から出て行った。





約2週間。




あの日から……
ここで目覚めることが
なかったって言うのか?





どうにも……
このところ体調がすぐれない。




左手の刻印から浮かんだ後の
異質な力を解き放つ時、
命を削り取られような
錯覚にも陥ってしまう。






そんな俺自身の身に次々と起こる
慣れない体験と、
体の重さに……
その先の不安を感じながら
ゆっくりと目を閉じた。











俺は再び……
深い闇の中へと
誘われていった。


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