悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~

9.闇からの声




村がダムに沈んだのが、
六月の中頃。


それから意識を失って、
眠り続けた二週間。



知らぬ間に季節は
七月に差し掛かろうとしていた。





「失礼いたします。

 ご当主、
 お目覚めですか?」




意識が回復したあの日から、
俺が起きるたびに、
顔を出すのは、陸奥虹也。




「ドクター、
 お呼びしますか?」



姿勢を正して紡ぐ陸奥。



「必要ない」

「悧羅校出身のご当主には、
 無用の者かとも思いましたが、
 今日の学校のノートです。

 読みにくいところもあると思いますが、
 目を通してください」



あの日から、陸奥は気持ちが
悪いほどに態度が変わった。




「お前さ、このノートは義務?
 懺悔?」



思わず、突き放すように
問いかける。



「どっちでもない。

 しいて言うなら、感謝。

 後は、俺が今一番したいと
 思ったことをしてるだけだ。

 クラスメイトとして……
 後は、友人としてかな」




恥ずかしがる素振りすら見せずに
サラリと口にする陸奥。


友人って言葉が、
何故か心地よかった。




「なら、なんでご当主なんだよ。

 お前、友人って言ったよな」





普段はつまらないと
気にも留めない言葉に
夢中になって言葉を返す。



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