悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~


「ご当主、わざわざのお越し
 有難うございます。

 隣に居ますのは、
 私の主人、
 徳力闇寿(とくりき あんじゅ)に
 ございます。

 主人は古からの習わしに従い、
 表舞台に立つことなく、
 屋敷の奥で、
 徳力の宝物庫を管理しております」





一族に居ながら、初めて聞くその名前に、
戸惑いを覚えながら飛翔へと視線を向けた。





「闇寿……九年ぶりだな」


飛翔が驚いたように呟いた。



「飛翔?」

「神威、俺やお前の父親にとっての父方の従兄弟だ。
 九年前に顔をあわせたが、神威は初めてか?」


そう紡がれた言葉に少しだけ冷静になれた。



親族間の結婚が多い徳力の家系は、
複雑に絡み合っている。




「万葉にとっては実の兄にあたる」


そうしみじみと呟いた飛翔の言葉に、
徳力の柵の深さを感じた。




「一族に連なりながら滅多に逢うことはないな。
 いつも華月には世話になっている」

「こちらこそ、夕妃・暁華が世話をかけている。
 そして最後の一人も近々、当主に目通りすることになる」



最後の一人?
その言葉に違和感を感じた。



確か華月の子供は、
現・さくらの暁華だけじゃなかったか?

夕妃は養子だ。



「私ども夫妻の実子は皆さまもご存じの通り、
 暁華のみにございます。

 
 実子のように育て続けたのは、
 生駒家より預かりし、私の弟・桜翼(おうすけ)と
 生駒家の巫女・生駒柊佳(いこま とうか)より
 託されし、夕妃(ゆうひ)。

 夕妃を守りながら、生駒の手によって
 命を落とした桜翼。

 
 桜翼の命を狩ったものは、
私の主人・闇寿。


 闇寿は、その罪に問われて
 一族から抹消されし者として
 奥の間に閉じ込められました。

 全てを一人で背負うために。



 夕妃もまた闇寿が実の父親を殺した存在なのだと
 何者かに吹き込まれ、従兄弟の蓮吏(れんり)を連れて
 徳力の屋敷から飛び出しました。


 現在、当主が住まうマンションにて
 共に生活する、
 夕妃と蓮吏がその時に託されし子供です。

 二人もまた、生駒の者たちより隠すため
 養子として迎え入れ、
 徳力の者として育て続けました」




今、マンションで時折顔を合わす
アイツが生駒に関わる存在だったのか。



まだ幼い蓮吏と呼ばれる女の子が
泣く声が何度もマンション内に響いていた。



「そして……」




続いて説明しようとした、
華月の言葉を夫である闇寿は静かに制した。 

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