悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~

17.雷龍 翁瑛降臨





気が付いた時、俺は社ではなく、
総本家の母屋の自室だった。




「神威っ!!」




縋り付くように布団越しに抱きついてくるのは
桜瑛。



「何だよ。
 泣いてたのか?」


掠れた声を出しながら
ゆっくりと桜瑛の涙を指先で拭い取る。



桜瑛は俺の手を両手で包み込みながら
自らの頬へと近づけた。


「……良かった……」


安堵したように紡がれた。



「飛翔は?」



問いかけた言葉に桜瑛は何も言わなかった。



まさか今度はアイツが犠牲になったのか?



不安が湧き上がる心。






「ご当主お目覚めでございますか?」



部屋の外から陸奥の声が聞こえた。



「あぁ。
 開けていいぞ」




そう言った途端、ゆっくりと開けられる襖。
慌てたように俺から離れる桜瑛。





「お取込み中でしたか?」



そう言いながらゆっくりと
部屋へ入ってきた陸奥は俺の傍へと座った。




「無茶なことしやがって」



傍で吐き出された言葉は、
今のアイツが感じたありのままの言葉。



「うるせぇ。
 俺は負けず嫌いなんだよ」



言葉遊びを楽しむように切り返す。


「起きれますか?」


再び、徳力に使えるものとしての口調に
切り替わった陸奥に俺は頷く。



あんなにも重苦しかったのに今はそれを全く感じさせず、
すっきりとしていた。




「神威くん。
 入っていいかな?」




ベッドから起き上がった俺の元に姿を見せたのは由貴先生。




「驚いたねー。
 顔色もかなり良くなったね」



そう言うと、いつも飛翔がしていたみたいに
俺の傍に近づいてくると、
手慣れた手つきで俺の状況を確認していく。
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