悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~



「由貴さん……アイツは?」

「飛翔はまだ眠ってる。

 何が原因かは私にはわからないけど
 穏やかな笑みを浮かべて眠ってるよ。

 何かを成し遂げたみたいな満足そうな笑みを浮かべて。

 バイタルも乱れてない。
 だから時間が経てば起きてくれると私は信じてるよ」




由貴先生はそうやって飛翔が眠っているのか、
右隣の部屋の壁に視線を向けた。



「信じて貰えないかも知れないけど。
 アイツの体から青白い光が抜き出て俺の中に入り込んだんです。

 そしたら……苦痛とか痛みとかそう言うのが一気になくなって……」


アイツが居なかったら、
今も俺はこうしていられただろうか?


桜瑛を悲しませずに、
隣で笑っていられただろうか?




「そう……飛翔が神威君を助けたんだね。 

 誰かの犠牲の上に成り立つ守護があり得ないことは、
 飛翔が一番感じているんじゃないかな。

 だから……飛翔の事は私に任せて、
 君は今、自分がやるべきことをやっておいで。

 大切な友達を助けたいんでしょ。

 今の神威の目はあの時の飛翔の目に少し似てるよ。

 君を助けたいと覚悟を決めたあの時の飛翔に。
 今日、飛翔は鷹宮に連れて帰る。

 向こうと連絡をとったから。
 李玖さんも心配してるしね。

 ここでやるべきことが終わったら、
 自分の意思で帰っておいで」




由貴先生はそう言うと部屋を後にした。 




「いいなっ。
 ああ言う繋がりって。

 あの人が飛翔の親友の一人なんだ。
 飛翔には、他にもそんな仲間が居てさ。

 香宮って、由貴さんと飛翔が出逢ったそんな学校なんだよ」


呟いた俺に陸奥はケロっとした口調で俺に切り返した。



「だったらもう、
 お前にもいるんじゃん。

 お前には俺がいる。

 それに今、ぶっ倒れてるアイツとかさ。
 あの二人を超える関係になりゃいんだろう。

 負けず嫌いのお前の望み通りさ」




そう言い切った陸奥の言葉の後、
久しぶりに心から笑えた気がした。



笑う事を忘れてしまった年月。




少しずつ心を出すことが出来るようになってきたけど、
今も笑うのは正直苦手だ。


それでも……こいつらと過ごす時間や、
桜瑛と過ごす時間が俺が失ったものを取り戻させてくれるなら。





「さっ、後見殿たちが待ってるぞ。

 立派なことをやりとげたご当主様をな。 
 客人も集まって来てるみたいだから仕事してこいや」




陸奥に言われるままに、
当主としての俺にスイッチをいれて部屋を後にした。





「ご当主」



後見がいるはずの
奥宮に顔を出した俺を呼ぶ声。



「万葉、体はもういいのか?」


「この度は、玉を抱かれたのこと。
 おめでとうございます。

 金色の雨が洗い流してくださいました」
 
「そうかっ」

「生駒、秋月より客人が控えております。
 着替えの後、奥宮の広間へ」


促されるままに当主としての黒衣の正装へと
着替えを済ませると奥宮の広間へと向かった。



広間に続く、控室の間には十二単を身に着けた、
さくらである暁華が静かに控える。




控室から覗いた広間には、まだ幼い黒髪の少女。

その少女の隣に寄り添う桜瑛。



そして……柊と呼ばれた生駒の女性。
華月・闇寿。
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