悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



ふいに振動する携帯電話。



待っていたと思われるのが嫌で、
何回か着信が鳴り続けるのを待って電話に出る。




「あぁ、起きてたか」

「起きてる。
 21時で消灯時間は過ぎてるけど、
 早すぎるんだよ」



何故かアイツと言葉を交わすときは、
喧嘩腰と言うか、ツンケンした言葉遣いになってしまう。



「まぁ、怒るなって」

「別に怒ってなんかない。
 飛翔の電話が遅かっただけだ。
 規則を破ったのは、お前の責任だ」



別にアイツの責任にするつもりなんかないのに、
そんな言葉がついて出る。


「そうかよ。
 こっちの仕事があっからな。

 明日、いつもの時間に海神まで迎えに行く」

「わかった。
 遅れたら承知しないぞ」

「あぁ、気をつけるさ。
 じゃあな、風邪ひかずに過ごせよ」



そう言ってアイツの声はプツリと途切れて切断される。




携帯電話を握りしめながら、
ボクはポツポツと歩いて自分の部屋へと戻って
ふて腐れるように布団の中に入った。




翌朝、いつものように午前中の授業を受けて
寮へと走って帰る。



外出届を出して、待合室でアイツが姿を見せるのを待つ。



13時半。

待合室の時計がちょうどを告げる頃、
アイツは姿を見せた。



「神威、行くぞ」


ボクに声をかけて手荷物を持つと、
そのまま車の方へと歩いていく。


何度目かのアイツの車の助手席。


アイツはボクがシートベルトを締めたのを
確認して、流れるように車を走らせた。



ギリシャの街並みを再現した学園都市。

海沿いの道を走って、海神校の門から外に出ると、
一気に街並みは日本らしい空間になる。





「神威、徳力の当主宛に一通の手紙が届いた」



飛翔によって手渡された手紙には、
何かの刻印が押されていた。



その刻印を見つめて、慌ててあの日
ボクの手に刻まれた龍の証と見比べる。




似ているけど違う。




「飛翔、これは?」

「万葉曰く、生駒の刻印と言うことだ」

「生駒?」



生駒・徳力・秋月。




徳力の家に伝わる本の中で、
この三つの一族の龍の物語が言い伝えられている。



ボクの一族にまつわるのは、雷龍翁瑛【らいりゅう おうえい】。

桜瑛が居る秋月にまつわるのは、炎龍【えんりゅう】
そして……この手紙を寄越した、生駒にまつわるのは、

蒼龍【そうりゅう】。




だけど…今のボクには、
雷龍とコンタクトとる術なんて持ち合わせていない。

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