悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


その日、朝から院内にいる患者さんたちの部屋をまわって、
一部屋、一部屋掃除を行う。

掃除の後は、ベッドメイクをして
入院中の患者さんの中で、洗濯物が洗いに行けないそんな人たちのところをまわっては
専用のネットの中に、一人一人の洗濯物を預かって回収していく。

それらを洗濯機に入れて洗濯したら、
屋上で洗濯ものを乾かす。


その後は、散歩の付き添い。
将棋のなどのゲームの相手。



入院中の患者さんたちが快適に過ごせるように、
ここ鷹宮総合病院は、昔からボランティアさんが沢山活躍している。


そんなボランティア業務をこなしながらも、
私の脳内は、飛翔のことを考える。




行けるものなら、
今すぐ私も行きたいんですよ。


飛翔のところへ。



思いつめた、そう言う時の貴方は
昔からとても危なっかしくて、
出逢ったばかりの全てを拒絶していた頃を想い出させるから。


「さっ、由貴。
 僕たちも行こうか。

 鷹宮のボランティアは少し一段落ついたし、
 今日は僕が車出すよ。
 
神前に行けば、
 新しい情報があるかも知れないから」



勇がいれたハーブティを飲み干すと
勇の車が止めてある鷹宮の自宅前まで歩いて移動する。


その途中、鷹宮のケアセンターで入所中の
金城の小母さんの元を訪問しながら。


「小母さん、おはよう」

「あらっ、由貴君来てくれたのね」

「今日はここのボランティアを手伝いに来たんです。
 それでお邪魔しました」

「まぁ有難う。

 それに比べて、うちの息子たちはどうしたのかしら?
 2人とも、ちっとも見せてくれないわ」


今、小母さんの記憶の中に、
小父さんの死は存在しても、氷雨の死は認識されていない。

今、小母さんが会い続ける時雨と氷雨は、
どちらも時雨が一人でこなし続ける二役に過ぎない。

それでも小母さんの中では、
時雨として、氷雨として存在し続ける。



あの事件の後から、
決して抜けることが出来なくなったスパイラル。



「時雨も、氷雨もまだ仕事が忙しいみたいで。
 また伝えておきます。

 その分、私は春からもこれまで以上にお邪魔しますね」

「そうね。
 国家試験に合格してたら、由貴君はここの先生になるのよね」

「その予定です。
 暫くは、研修三昧ですけど」


そんな会話をして、私は小母さんの病室を後にした。



「終わった由貴?」

「えぇ。終わりました。
 では参りましょうか」





勇の運転する車は、
ゆっくりと自宅の門を出ていく。




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