悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

ボクたちは、
元々来ていた服を身に着けて柊の後を追いかける。


最初降り立ったその場所で、再び柊が指で何かを描くと
元居た見慣れた景色がその前に広がった。



「それでは、場所をK市へと移します。
 どうぞ後に続いてください」


そう言って、柊は自分の車に乗り込むと運転して先導していく。

柊の車を追うように続く2台の高級車。
朝早くに訪れていたはずが、すでに太陽は高くなっていた。

水浴びをした場所から、車で40分ほど移動した山奥で柊の車は静かにとまる。



山の中、何もあるようには感じられない。

だけどそこに降りた時から、体は重怠く……吐き気を伴うようになる。

それは、桜瑛も同じような状況にあるらしく、
生まれつき持っているアイツの鈴を必死にチリンチリンと降り続ける。


その鈴が綺麗な音を鳴らしている間だけは、僅かでも息苦しさが緩和されるようなそんな錯覚。



「飛翔、お前は平気なの?」


この不調を感じているのかいないのか、隣で涼しい顔をしているアイツが気に入らない。



「耐えられないほどではない。
 ただ、お前たちがきついなら、俺はお前を連れて離脱する」

「離脱はしない。ボクは見届けないといけないから」



柊はその重苦しい空気の山の中、何かを探すようにキョロキョロと周囲を散策している。


ただボクには、柊の探し物はわからない。



「宝さま、火綾の巫女、見つけましたわ」


そう言うと柊はボクたちを手招きした。
柊の元に歩も、目の前にあるのは崩れた石でしかない。


その石に優しく手を翳すと、柊は静かに目を閉じた。



そしてそのままゆっくりと息を吐き出して、呼吸を変化させていく。




その後は、ただ目の前で流れるような行動に魅了されていくばかりだった。


その場でゆっくりと立ち上がった柊は、
下から両手を上へあげて、上で合わせたてをそのまま胸元までおろしてくると
胸の前で何かの文字を描くように、指を動かしていく。
時に人差し指と中指を重ねて、空を切り裂くように何かを唱える。


そして掌を返して、息を吹きかけた後、風が周囲を勢いよく通り過ぎて
一通り駆け抜ける。


それらを見届けた後、ゆっくりと呼吸を再びしながら掌を合わせた。


そのまま静止した柊の体が、何時かの様に傾ぐと傍に居た飛翔が慌てて支える。




「申し訳ありません。思った以上に、結界の修復が手間取りました」



呼吸を整えながら、柊は言葉を続ける。
アイツは柊の体の状態を確認するように手を添える。



「飛翔殿、お気遣い有難うございます。
 一時的に、龍の力をお借りした代償です。
 暫し休めば、回復いたしますのでご安堵召されませ。

 宝さま、火綾の巫女。
 ゆっくりと心を落ち着けて、この地の息吹を感じてください。

 最初、訪れた時、この地は重苦しく、吐き気すらも感じていたはず。
 ですが今はどうですか?」



柊の言葉に、慌ててボクも呼吸を静めてゆっくりと精神を研ぎ澄ます。
その場所は、今は涼やかで重苦しさは感じなかった。

それは桜瑛も同じだったみたいで、ボクたちはお互いの顔を見あう。
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