悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「大丈夫。柊、凄いの。桜瑛もう苦しくないよ。
 神威は?」

「ボクも平気だ」


桜瑛の言葉に返事をすると、桜瑛は今も疲れた表情をする柊の元へと近づいていく。



「柊、痛い?しんどいの?」


心配そうにじーっと見つめる桜瑛。



「大丈夫ですよ。火綾の巫女。柊は、いつものことですから。

 ただ……今は私が一人でやっているこの仕事を、宝さまと火綾の巫女にも
 お手伝いいただければと思っています」

「うん。桜瑛、わかったの。
 柊が苦しくなくなるなら、桜瑛はちゃんとお手伝いできるもん」



桜瑛は二つ返事で、柊に返事をする。



「柊、その仕事は何をしてたんだ?
 徳力・生駒・秋月の隠された仕事は一体何なんだ?」


ボクはずっと気になってたことを問う。



「そうですね。
 徳力・生駒・秋月は、この惑星【ほし】を癒す者とでも言いましょうか。

 宝さまは、そのお力を持って惑星の声を聞くとされます。
 この惑星には、様々な守りがあり、均衡を保ち続けています。

 しかし人が病気に罹るように、その土地もまた長い年月の中で気が乱れて病にかかってしまうのです。
 そう言った場の乱れを修復し、結界を正常に機能させるのが我らが役割。

 太古の昔より、龍を身に宿す我らは癒者としてこの惑星と共に歩いてまいりました。

 そして今は私、柊がその任を務めています。
 柳蓮の力を借りながら。

 ですが私一人では、間に合わないのも現状なのです。
 それ故に、お手伝い頂ければとお声をかけさせて頂きました」



柊の言葉は想像以上のもので、
素直にボクは、「はい」と頷けるものでもなかった。


宝【ほう】の存在は、惑星の声を聞くもの?

ボクが?




今のボクには何もそんな力はないのに。
その力のなさが、ボクを頑なに追い詰めていく。





「すぐにお返事が頂けるとは思っていません。
 柊は無理強いするつもりもありません。

 今の宝さまが、声が聴けず力を感じられないにも、亡きご両親の想いがある故。
 それを承知で、今少し私の修行に顔を出しては頂けませんか?

 来るべき日、御身がどの選択をしようとも、恙なくことがなせるように」



そう言った柊の言葉に、ボクは渋々頷いた。




その後、その場所を離れてボクは
一週間、またいつもの学校生活を送り続ける。




ただ一つ、ボクの脳内には、あの日見た映像が鮮明に繰り返され続ける。


眠る夢の中、何度何度も流れ続ける映像に、
最後にあの日見た、雷龍がボクに笑いかけているようなそんな気がした。





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