悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

4.神子と修行と俺の役割 -飛翔-



五月下旬から本格的に始まった週末だけの神威の修行。

その修行にあわせるように、
俺もまた神威のお目付け役を兼ねて付き添い続ける。

当初は見様見真似で体を動かし、何度も呼吸を意識して繰り返してみるものの
俺には何がどう変化しているのかわからなかった。


そして常に傍に居れど、神威にしても桜瑛と言うガキにしても
修行の成果が出ているのかと問われれば、答えられるはずもなかった。



洞窟の中で繰り返される基本的な修業。


そして、柊に付き添って結界が崩れているらしいその場所へと
出掛けて、柊は蒼龍の力を借りてその土地の護りを高める。


決まって術を使った後は貧血を起こしたかのように倒れるものの
術を担った見返りであり少し休息すると落ち着いたように呼吸も穏やかになる。


頻繁に倒れすぎるため、柊に病院にかかることを進めたところ、
ホームドクターを担う神前が、柊の承諾と共にカルテを開示してくれて
『術』以外の他の要因が考えられないことを知った。



その週末もいつものように、柊の元へ連れて行った俺は
その場で神威たちを見守りながら、
岩肌に持たれて持ち込んだ分厚い書類を読みふける。



「飛翔、何してる?」


集中していた俺を呼び戻したのは神威の鋭い声。




「火綾の巫女、火綾の巫女」



柊が声をかける傍ら、ぐったりと横たわっているのは秋月の神威の友達、桜瑛。



「神威、何があった?」


アイツに出来事を確認しながら、上着を脱いで桜瑛の傍へと駆け寄って
バイタルを確認していく。



「飛翔、桜瑛は?」

「心配ないよ。バイタルは安定してる。
 それより、何をしてたんだ?」

「指文字。龍族と会話するための文字があって、
 柊に教えて貰いながら、一つ一つ指で文字を描いてたんだ。

 文字を一つ描くたびに、体中の血が湧き上がるみたいに熱くなってるのを感じた。
 だけどボクはそれだけだった。

 けど桜瑛はその修行の途中で、意識を失った」


淡々と説明する神威の言葉。

それはやはり現実には予想も出来ない夢のような体験で、
半信半疑を覚えながら柊へと視線を向ける。



「飛翔殿。先ほど、私がお教えしていたのは宝さまには、雷龍の召喚に必要な呪文。
 火綾の巫女にも同様、焔龍を迎え入れるための召喚呪文を龍族の言葉でお伝えしておりました。

 ですが、火綾の巫女は秋月の姫ではいらっしゃいません。
 秋月の神子は、本来は月姫の記憶を宿す存在。

 月姫は宝さまの配偶者であられたお方の名。
 その姫の意を借りるものとして、火綾の巫女は誕生したと言われています。

 それゆえ神子が神龍の力を媒体に降ろすのと違って、その身をお貸しして神に力を借りるとか。

 もしかしたら、火綾の巫女は焔龍の力の片鱗を感じたのかもしれませんね」



柊は今も桜瑛を見つめながら、そっと自らの手を桜瑛の額に翳した。

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