悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「おぉ、嵩継。湯川さんは大丈夫なのか?」

「はいっ、慢性肝炎からの食道静脈瘤でした。
 早城が巡回中に異常を発見し、早急に処置できたものと思います。

 出血量が多かったのでバルーン止血の後、カテーテル治療を施しました。
 出血は止まりましたが、今後の肝機能の低下に予断は許せません」

「そうか。嵩継、御苦労だったな。
 早城、君も研修医の身で大変だっただろう。

 だが嵩継の元に居て損することはない。
 貪欲に大切なものを吸収するといい」

「代診有難うございました。次の患者から交代します」


嵩継さんはそう言うと、さっきまでの疲れた表情を隠して
普通に診察を始める。



コンピューターを操作しながら、午前中の外来の全てを予定より少しオーバーして終えると
13時近くになってた。


「悪かったな。
 さて、昼飯行くか。

 食堂で良かったら奢るぞ」


そう言って俺と肩を並べて歩いていく嵩継さん。


ただ歩いているだけど、次から次へと患者から声をかけられる存在。
擦れ違うたびに、他愛のない会話を繰り広げる存在。



外来から食堂まで本来なら一階から三階。

移動に五分もかからない場所なのに、
食堂に辿り着いた頃には、すでに13時10分。



「うわっ、寄り道しすぎた。
 おばちゃん、日替わり2つ」


滑り込むように食堂に入ると、職員専用受付でオーダー。



「わっ、安田先生。
 今日は、ちょっと遅かったんだねー」

「まぁな。
 おかげでお腹ペコペコだ-」

「はいはいっ。先生の大盛りにしとくから。
 お連れの研修医の先生は?」

「俺は並みで」

「はいよっ」

「ところで皆川さん、調子どう?
 まだ痛み続くようだったら、仕事の後でも連絡してくれたら俺、対応するから」

「ありがとよ。この間、見て貰ってからは調子いいよ。
 はい、お待たせ」



そう言って調理側から手渡されたランチ定食に多さに絶句。


ご飯もおかずも大盛りの定食をテーブルに運ぶと、
パクパクっと胃袋の中におさめていく。


俺も豪快な食事をみながら、出された定食を最後までたいらげる。


「御馳走さまでした。あぁ、食った食った」


あれだけの量を俺よりも先に食べ終わる嵩継さん。
数分後、普通の量を食べ終えた俺は、二人分の食器を返却口へと戻す。 
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