悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「ご当主、夜分に申し訳ありません。
 後見役の華月【かげつ】さまがお迎えに参れませんので、
 代わりにお迎えに参りました。

 八重村【やえむら】と申します。
 右から、元井【もとい】・日暮【ひぐらし】。

 そして今、車でご当主を総本家と連絡をしながら待ち続けておりますのが、
 私共の主、徳力康清【とくりき やすきよ】でございます。

 康清さまもお待ちです。
 詳しくは、車内で説明させて頂きます」


八重村がそう言って立ち上がると、
ボクを三方から囲むようにしてそれぞれが立つと、
床に置いていた荷物を軽々と手にして、
メイトロンに八重村は挨拶した。



メイトロンに見送られて、
深夜寮を出たボクは、そのまま寮の前に横付けされた駐車場にとめられてあった
車へと乗り込んだ。



車の中には、康清と説明された存在らしきものが
ノートパソコンを開いて、今も何か作業をしながら
手元にあるメモに数字を記入し続けていた。




元井は運転席へ。

日暮は助手席へと移動して、
車内の上座となる場所に、ボクを座らせると
その反対側に八重村は控えるように座った。




「ご当主、夜分に申し訳ない。

 一族の代表として、ご当主のお迎えに参った。
 私の名は、徳力康清。

 ご当主のお父上とも懇意にしていたのだが、
 名前くらいは聞いたことないか?」


そう言いながらも康清の目からは、
殺気や野心に近い突き刺さる思念のようなものを感じる。


「いえっ。

 父はあまり話したがりませんでしたので、
 康清殿のことも知らなくてすいません」


「いやいやっ、
 まだ当主は幼い子供だ。

 知らなくても当然だよ。

 だがな……こればかりは、子供では済ませられないんだよ」


そう言って、康清殿は手元のPCをボクの方に見せた。




液晶に映し出された映像はボクの故郷、
安倍村が大雪の被害にあってしまっている映像だった。



「ご当主も知ってのとおり、
 安倍村でこのような大雪が降ることは珍しい。

 映像の通り、村の家屋が倒壊してしまっている。
 山から雪崩が起きて、その雪崩が下の集落を飲み込んでしまった。

 ここまで大事な被害をもたらしたのは、
 ご当主のひいじい様にあたる、六代前のご当主が身を捧げた時以来。

 ご当主には、その意味がわかりますかな」



そう言うと康清は、
手元に持った巻物をボクの方へと見せた。


車内にともる微かな灯りを手がかりに、
その巻物を見つめる。



その巻物には、徳力当主が「村の生神」とされる所以【ゆえん】の
説明から始まり、人柱の儀式の手順、やり方などが事細かに書き記されていた。


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