悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence




村に災いが起こりしとき、
当主とは身を神に捧げて、
村人たちの子孫繁栄を願い続けるもの也





「康清。
 母の時は幼すぎてわからなかった。

 だが父の時ならわかる。
 あの日も、村には長雨が降り続けて海が荒れて
 土砂崩れなどの災害が起きた。

 父はその神の怒りを鎮めるために
 その身を捧げたのか……」



ずっと心に引っかかっていた出来事。





沢山、雨が降り続いて、
台風が近づいているとニュースが騒いでいた。

その夜、父はボクを白装束を着て抱きとめると
『神威』とボクの名を告げて、そのまま帰らぬ人になった。



翌朝、昨日の雨が嘘みたいに晴れ渡った中、
村人たちがボクの家を訪ねてきた。



父の遺髪だと言う髪をボクに差し出して
『新たなご当主の誕生に、心より寿ぎ【ことほぎ】申し上げます』っと
一斉に村人たちは、何かを崇めるように頭を下げた。




「いかにも。

 ご当主のお父上は、三年前に一族の掟に基づいて
 その身を神に捧げて、村を守り、天へと帰られました。

 本来、その後を継いで、一族と村を守るものの名は、
 徳力飛翔【とくりき ひしょう】。

 ご当主のお父上の、弟君に当たります」

「徳力飛翔?
 だがボクは、今までそのような名は知らぬ」

「いかにも。
 
 飛翔はその重荷から逃げ出して、
 まだ幼い御身のご当主へ、
 その役目を押し付けて全てを捨てて出ていかれました。

 本来は此度、その身を紙に捧げるのは飛翔ではありましたが
 その飛翔も不在。

 真に当主を継承した、まだ小さい御身にこの役割を担わせるのは
 私もつろうございますが、これもまた宿命【さだめ】。

 ご当主、安倍村の民を救うため、
 ご当主としての務めを今こそ、果たしてください。

 古くからのしきたりに従って」



そう言うと、康清はその巻物をボクの手から抜き取って
丁寧に何処かへと片付ける。



何もかもが突然すぎて、
ボクの心が悲鳴を上げる。

悲鳴を上げた後は一気に冷却していくようで
意識を経つようにボクは『当主』としての
重荷を受け止めることに意識を集中させる。



車からヘリに乗り換えて、
翌日、村へと辿り着いたボクが
連れられた先は、見知らぬ家屋。




「康清、華月は?」

「後見役様は現在、村の災害救援活動の陣頭指揮を執っておられますので、
 こちらの儀式は私が、一任されています。

 それでは、こちらの奥で禊【みそぎ】を」


案内されるままに、
その場所であの巻物に記されていた通りに、
順番に禊をしていく。

その後は用意された白装束を身に着ける。
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