悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


精神を集中しながら鬼を追いかけるのをやめて、
床から立ち上がる。


立ち上がる間際、少しの立ちくらみを感じて
壁に手をついておさまるのを待った後、
二人の待つ、リビングへと足を運んだ。



「待たせてすまない。
 万葉、調査結果をボクに」




そう言って手を差し出すと、万葉はボクの元に
茶色い分厚い封筒を差し出した。




依子の名前は、須王依子【すおう よりこ】。

あの桜塚神社の咲と言う少女が通った、
聖フローシア学院の高等部二年生だった存在。

今年の春、父親の芸能プロダクションの事業を失敗と同時に退学。


依子の父親、須王啓二【すおう けいじ】が経営していた事務所に
所属していたアーティストの代表がYUKI。


だがそのYUKIの容姿は、あの鬼そのもので。



「万葉、このYUKIの資料は?」

「ご当主が興味を惹かれると思いまして次の頁に調べてあります」



万葉の言葉を受けて、依子の調査結果を読むのを中断して
YUKIの資料へとうつる。


だがYUKIの資料は、思ったほど情報網がなかった。



由岐和喜【ゆき かずき】と言う本名以外は、
殆ど調査データーは残されていない。


依子の父親の芸能プロダクションが潰れた要因に、
YUKIの移籍問題があり、そのYUKIが移籍したのが
華京院財閥が経営する芸能事務所。



「万葉、YUKIに関する資料はこれだけか?」

「最後に、こちらをご覧ください」



そう言って万葉がノーパソを起動してボクに見せたものは、
街の防犯カメラが映し出した映像。



「ここと次のカメラ。不思議だと思いませんか?」




万葉に指摘された映像のカメラは、直線状に二機セットされていて
一本道の為、脇道などは一つもない。


ただ一台目のカメラから、二台目のカメラの間には
死角となりうるスポットが一か所あるのは、別の映像で確認されている。


だけど一台目のカメラに映ったものは必ず、二台目のカメラにも映るのが当然だった。


だけど事務所を出た後の、YUKIだけは違った。


一台目のカメラには映っているものの、
どの時間帯の防犯カメラのデーターも、二台目のカメラには
YUKIの姿は一切映っていない。





「万葉、引き続きYUKIについてのデーターを調査してくれ」

「現在も調査中です。
 何か新しい情報が入りましたら、お知らせします」



そして再び、資料が綴られたファイルに目を通していく。
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