悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「あの……救急車は?」

「結構です。
 救急車よりも家の者連絡を取ります」


そう告げて、ボクはそのまま携帯電話を握りしめた。



電話帳を開いて表示するのは、
徳力総本家・華月・万葉・飛翔・本社・氷室由貴の名前。

グループ選択から上下キーを指先で触りながら、
順番にカーソルを行ったり来たり。


飛翔の状況がわからない今、華月や万葉は?


飛翔だったら?

そう思った時、ボクの指先は氷室さんの名前で静止した。

あまり話したことはないけど……
あの人は、飛翔が徳力の一族のことも話してみたいだった……。


だったら……僅かな希望と共に、コールボタンを押す。


一回、二回とコールがなった後「もしもし」と少し驚いたような声が聞こえた。



「えっと氷室さんの携帯ですか?」

「えぇ。
 神威君、どうかしましたか?」


電話の向こうは穏やかな氷室さんの声。



「えっと飛翔が今力尽きて動かない。
 助けて貰えますか?

 大事(おおごと)にしたくないと思うから」

「そうですね。
 神威君、貴方は大丈夫ですか?」

「うん……」

「なら今から言う通りにして頂けますか?」

「何?」

「飛翔の携帯は見つけられますか?」


言われるままにアイツの服のポケットに手を突っ込んで
携帯電話を掴み取る。


「見つけたよ」

「キーホルダーついてますね」

「うん。アイツに似合わないキーホルダー見つけた」

「えぇ、それで構いませんよ。
 ネジになっているので、キュッキュッとまわして中のボタンを押して頂けますか?」

言われるままにキーホルダーを分離してボタンを押すと、
そのまま中の何かが点滅を始める。


「点滅してる。青く」

「えぇ。
 時雨、飛翔のGPSが動きました。位置情報出ますか?」

「あぁ、出てるぞ」


電話の向こう、もう一人の誰かの声が聞こえる。


「ちょうど友達と出かけていたので、近くに居るようです。
 15分くらいで到着します。
 もう少し待ってて貰えますか?」

「大丈夫。待てるから」

「えぇ、それは飛翔も心強いですね。
 飛翔に何がありましたか?」

「お父さんの護符……」



その先は、ボクも氷室さんに伝えていいのかどうかわからなくて
言葉を飲み込む。



「飛翔のお兄さん……つまり、神威君のお父さんの遺された形見の護符のことですか?」

「うん」

「飛翔はそれを使ったと言うことですか?」

「うん……。助けてくれた。ボクを……」



ずっと弱音なんか見せないって、見せたくないって思っていたのに
氷室さんの誘導に引っかかるみたいに、ボクの弱い部分が沢山さらされていく。


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