悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「……飛翔……」

「ただいま、華月。

 任せっきりで悪いな。
 神威は?」



華月は無言で首を横に降った。




「独断だが神前に応援を頼んだ。
 医療面でも、食料面でも 確実だろう。

神前には 伊舎堂・紺野・綾音・早谷・三杉が
 連なってるからな」


「えぇ。
 感謝しますわ」

「飛翔、貴方は?」

「神威を探しに来た。

 場合によっちゃ、神威を俺が預かる。
 兄貴の手紙が出てきた。

 神威を助けろだと」



助けろ。


その紙面だけの義務で動き出したわけじゃない。


TVを見た途端、
こうせずにはいられなかった。


ただ……それだけ。

兄貴の紙面は後付に過ぎない。




「安部村のヤツらだけ、
 一時、この村を離れられるように
 準備させてくれ。


 兄貴のマンションに連れて行く。
  

 華月も俺が預かってるマンションに来い。
 神威もそこに連れて行く。

 ガキを探してくる」



華月と別れて、避難所の学び舎を飛び出すと、
一気に坂を下っていく。


慣れない雪に時折、足をとられながら
走りぬける。



「すいません。
 小学校一年生くらいの男の子知りませんか?」



すれ違う人、すれ違う人に聞きながら
雪の中を駆けずり回る。
  

 
ふと視界に飛び込む一人の幼い女の子。
年からしてガキと同じくらいか?


「おいっ。
 そこから先は危ない」


そっちは海の方に続いてたはずだ。



ガキの相手をしてられないと早々に立ち去ろうとしつつも
気になって思わず声をかける。

目の前のガキは俺を暫く、
じーっと見つめるとまた雪に覆われた海のへ続く山道に入ろうとする。



「いいの。
 桜瑛【さえ】、行くの」


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