悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



ちぇっ。
邪魔くせぇ。




ちょこまか動きそうな
ガキをひょいと抱き上げると
ガキは足をジタバタさせる。



「何処に行く?
 この先は危ない」



何時までもコイツにかかわってる時間はねぇ。
だが……。


「おじさん。

 神威の味方?
 神威の敵?」


神威だと?

思わぬところでその名を聞いた俺は
切り返す。


「……神威……?
 お前、神威の居場所を知ってるのか?」


「うん。

 この先に居るって炎が映し出したの」



はっ?
炎が映し出したって、何言ってやがる。


ガキの言うことを信じるか……?


普段なら非科学的すぎる言葉。


だけど養父は言った。
生駒と秋月が応援に来ていると。


生駒は風使い、秋月は炎を司ると聞く。


こいつが秋月の関係者なら、
一気に手がかりとして申し分ない情報になる。




「お前、名前は?」

「桜瑛。
 秋月桜瑛」



こいつが秋月の姫か……。




「わかった。

 桜瑛ちゃんだったか、もっと詳しく教えてくれるか?
 俺がその場所に行く。

 それと同時に、桜瑛ちゃんには
 避難所にいる華月に応援が欲しいと伝えてくれないか?」


「華月?」


「あぁ。

 避難所で華月の名前を出せば、
 アイツはすぐに捕まるはずだ」




そう言うと、桜瑛から場所を聞いて
俺は道なき山道を、雪の中に埋まりそうになりながら
海の方へと通り抜けた。


時折、足をとられながら入っていった先で、
兄貴の面影が残る神威が意識なく横たわっていた。



慌てて駆けつけた神威は、
低体温症を引き起こしているのか、
体温は下がりきっていて、脈に触れようとするものの
拍動が感じ取れない。


チクショーっ!!





今の俺が出来るのは、
心臓マッサージと、マウストゥマウスしかないか。




とりあえず神威の体を抱き上げて、
仰向けに寝かせると、心臓の位置を指先で確認して
心臓をマッサージしていく。



「君、もういいよ。
後は私たちがするから」



そう言って俺を神威から引き離すと、
神前から派遣されたドクターたちが神威の処置を開始する。


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