悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

23.眠りの中の鬼 -神威-



飛翔に連れられてマンションへと帰ったボク。


宝と言う役目の為の、初めての不思議な体験。
ボクの知らない時間。


何もかもがわからないことだらけで、
必死に突っ走っただけの時間。


だけど……和鬼と出逢って、ほんの少しだけ
ボクはボク自身に、自信を持つことが出来た。


夏休みの間、ボクは柊の元、今も修行を続ける。

今のボク一人では、まだ雷龍翁瑛に認められることは出来ないから。

何時か、飛翔の力を借りずに……
雷龍翁瑛に認められるそんな日に憧れながら。



「神威、今帰った」



マンションの鍵が開くと、鷹宮から帰ってきた飛翔が顔を覗かせる。


「お帰りなさい」

「あぁ、ただいま。
 出掛けるか?」


飛翔はそう言うと、ボクは勉強のテキストを閉じて
飛翔と一緒に地下駐車場へと移動する。



そう……あの日から、ボクが夏休みの間続けている日課は
毎日、和鬼が眠り続ける病室に顔を出すこと。



あの事件から二週間。
今も和鬼は眠り続ける。


何時目覚めるのか、どうして眠り続けているのか
原因はわからない。


だけど和鬼は、今もただ眠り続けていた。




通いなれた病室の扉を今日も開く。




「あらっ、徳力さま。
 今日も来てくださったのね。
 由岐、お客様がいらしてくださったわよ」



穏やかな声で、傍に付き添いながら依子が微笑む。



和鬼の傍へと近づいて、ベッドサイドの椅子に座ると
眠り続ける鬼の手をそっと掴む。

そしてパジャマの袖をめくる。



「あらっ、何か気になることでも?」



依子の声に、ボクは「別に何も」っと小さく返した。




ボクが気になっていたのは、
あの真っ黒に変色していた皮膚がどうなっているのか気になったから。



だけど袖口から覗いた皮膚は綺麗な肌色をしていた。





翁瑛たちが、力を貸してくれたのがはっきりと感じられた。




ふいに病室に、箏の音色が響いていく。



驚いて依子の方に視線を向けると、
持ち込んだオーディオで何かを再生しているみたいだった。




その歌は幻想的で、優しくて……心に染み渡ってくる。
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