悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



だけどそれも……時期が来たのかもしれない。




徳力のトップの部屋として存在するなら、
雷龍の札を持つ今こそ、この部屋を神威と過ごす部屋として使用することが出来たら
俺自身の徳力においての存在も示すことが出来るのではないかと考えて、
急ピッチで改装工事と家具などを購入して、住めるように準備を進行させる。



今も安倍村に居る、闇寿さんからは次々と被害報告があがってくる。


それらを華月と万葉と共に目を通しながら、
復旧のための準備も、同時に思案していく。



当初、大雪で雪崩が起こり被害が始まった村。


だけど雪は雨へと変わり、
雨は雪をとかして更なる被害を出しているみたいだった。


二週間がたちそうな今では、雪は姿を消し
被害の爪痕だけが、生々しく残っている状態のようだった。




雷龍の札を手に入れても、
まだ俺には、被災者の為にしてやれることなんて殆どない。


医療スタッフとして駆けつけることも、
まだまだ研修の始まっていない俺には出来るはずもない。



そんな口惜しさと未熟さに苛立ちながら
幾晩もの夜を過ごす。


ただ仮眠だけを取りながら。



ふいに携帯が震えだして、手に取りだすと由貴の名が液晶に表示される。



「飛翔?」

「あぁ」

「今どこですか?」

「鷹宮の特別室」

「鷹宮の特別室、神威君が入院するところですね。
 今から少し逢えますか?」

「あぁ」



短く会話を終わらせると、
そのまま特別室のソファーに腰掛けて目を閉じる。


「飛翔」


由貴の声が聞こえて慌てて眼を開けて「おぉ」と答える。

僅かな時間でも、
ウトウトと眠ってしまっていたみたいだった。


「随分とお疲れのようですね。
 眠れていますか?」

「いやっ。
 やることが沢山あってな。

 俺は……兄貴の権限を借りても、
 一族にとっては、厄介者なんだよ。

 神威にとってもな……」



半ば愚痴のように親友に零してしまう弱音。


座ったままで多少ふらつきそうな体を立て直しておきたくて、
素掘っていたソファーから体を起こすと、華月が姿を見せた。



「飛翔、そろそろ参りましょうか?」


華月に、こいつらを紹介していたかな……。


本当なら、もっとしっかりと俺の親友だと紹介できれば良かったんだがな。
そんなことを思いながら、華月の方に向き直る。


「華月、俺の親友。
 氷室由貴と緒宮勇人だ。

 安倍村の災害時にも、手伝いに来てくれた」

「えぇ、飛翔存じていますわ。

 あちらでもご挨拶させて頂きましたが、
 この度は本当にお世話になりました。

 今日よりこちらで、当主がお世話になります。
 どうぞ宜しくお願いします」
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