悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


すでに知り合いになっていたらしい、アイツらは
華月と言葉をかわす。

華月がお辞儀をしたのを頃合いに俺は言葉を割り込ませた。



「ガキを迎えに行ってくる。

 ここに連れてきても、
 俺はガキとまともな会話にはならないだろう。

 だから……由貴や勇が、ガキの話し相手になって貰えたらと思ってる」




そう……。
俺には、頑なに心を閉ざし続けるガキ。



兄貴のようにはなれないと焦る俺自身。

それはそれで精神的に、キツイがそれでも
俺が無理なら、俺以外の一族とは違う人間で、
神威をガキとして扱ってやれる存在が欲しいと思った。


面と向かってお願いするのは照れくさくて出来ないから、
言葉の隅っこに、願いを織り込んで病室を後にした。




車へと向かう途中、華月と会話を続けるのは
安倍村のこと。


そして華月の家族のこと。

一族と連絡をとらない間に、
華月には、旦那が居て子供が二人も存在していた。



二人のうちの一人は、
華月にとっての弟、櫻翼【おうすけ】と生駒の巫女の間に生まれた子供・夕妃【ゆうひ】。


そいつを櫻翼より託されて、養子に迎えた。
もう一人は、華月と闇寿さんの実子である、ガキと同い年の暁華【きょうか】。



暁華も夕妃も今は安倍村を出ていて、
今回の大雪の被害にはあわずに済んだようだった。



ようやくそんなお互いの会話を出来る時間が出来た時間。
失った時間の大きさを実感する。




すると背後から「飛翔」と、勇が俺の名を呼ぶ。

振り向いた途端に放り投げられたものは、
缶珈琲のブラック。

右手で受け取るのを見届けたと同時に、
勇は更に言葉を続ける。


「飛翔、僕に出来ることがあれば何時でもいって」

「えぇ、勇の言う通りです。
 私も出来ることを精一杯、お手伝いさせて頂きますよ。

 今は神威君を無事に連れてきてください。

 その後、時間が出来たら夜にでも話しましょう」



勇の言葉の後に、慌てて言葉を続けた由貴は
俺に向かって手を振る。



嬉しいような、照れくさいような親友の存在。



だけど……多分、こいつらと出逢ったから
俺は、今も俺らしく存在できるんだと思えるから。



「わかった」っと返事するように、
いつもの様に手をあげて合図すると、華月と共にリムジンに乗り込む。


神前悧羅から、鷹宮へとの転院手続きを終えて
再び、神威を連れて乗り込んだ車内。



アイツを抱き上げて後部座席に運ぶと、その隣に何も言わずに座る。



睨み付けるような視線を感じながらも、
俺は何もなかったように、その場所に座って鷹宮まで、沈黙の時間を過ごし続けた。



本当は神威を世間一般のガキのように、
等身大に戻してやりたいが、それもまた話ことが苦手な俺には
誘導なんて器用な会話も出来るはずもなく、
その結果、車内には沈黙しか残らない。

< 37 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop