悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



そんな時も、飛翔を睨み続ける神威君の視線は変わらない。


飛翔もまた困惑したように無言で黙り込む。



病室内に重たい沈黙が広がった後、
ベッドの上の少年が小さく告げた。




『阿部の者がお世話になりました』っと、
ただそれだけ。




それ以上は会話を続けられる雰囲気でもなくて、
私も勇もただお辞儀をして、病室を後にした。



私たちの後を飛翔もまた追いかけてくる。





「何となくわかったかも。
 飛翔がそんなに疲れ果ててるの」

「飛翔、神威君っていつもあんな感じなのですか?」

「村を離れてこちらに連れて来てからはずっとあのままだな。

 意識が戻ってからは、
 何度も病室を抜け出して安倍村に無意識に帰ろうとする」



ナースステーションに寄って勇が見知ったか人を見つけたのか、
少し喫茶店まで行くことを告げて、神威君の監視をお願いすると、
私たちは二階の喫茶室へと移動した。


喫茶室は、見舞客と入院客・見舞客同士がお茶をしてたり、
休憩中の病院スタッフが関係者専用スペースでそれぞれの時間を過ごしていた。



テーブルにつくと、それぞれ想い想いのものを注文して
私たちは溜息を吐き出した。




「悪かったな。

 せっかく来てくれたのに、あのガキあんな調子で」



そう言って切り出した飛翔は、
私と勇に、私たちが帰ってくるまでの飛翔の時間の使い道を説明してくれた。



基本、殆どは神威君の病室に居ながら、
神威君が眠っている間に、徳力絡みの準備に奔走していたらしい。


安倍村で被災した人たちを、自分のマンションに住まわせるために
それぞれの部屋に備え付けの家具や、必需品を備品として手配して
被災者たちが、その日から少しでも快適に生活できるようにと
準備に追われていたみたいだった。




そんな生活を送り続けた飛翔。


だったら疲れも出るはずだと、
自分に言い聞かせながら、


「勇の部屋でも借りて、少し集中的に休んできたら。
 私なら、昨日こっちに戻ってから勇のソファーベットでぐっすりと眠りましたから。

 私が見ていることも出来ますよ。
 それに私も少し、神威君に興味があります」



そう告げると、注文した飲み物がテーブルへと運び込まれて
私は紅茶を口元に運んだ。



飛翔はブラックコーヒーを飲み、勇はカフェオレを飲み始める。

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