悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「勇、飛翔が少し疲れているみたいなので
 勇のゲストルームをお借りできませんか?」

「そうだね。
 僕も考えてた」


勇と二人アイコンタクトの後、
飛翔に決定事項を告げるように伝える。



私と勇の企みごとに、観念したように
休息を了承した飛翔は、喫茶店を後にすると
勇と二人で、戻っていく。



二人を見送った後、私は再び特別室へと戻って行く。





さて……神威君の本質を知らないと、
あのままじゃ飛翔が参ってしまうよ。



一人、エレベーターの中で呟いて
私は、再び彼の病室へと向かった。





あの日から二人の心の交流は始まっているはずなのに、
ただ……静かな沈黙だけがそこに流れ続ける。



何時の間にか、彼らの間に降り続ける雨は
今も止むことを知らない。



出逢った頃から、
感情を表に強く出すことはなかった飛翔。

いつも何を考えているのかわからない。



そう思われることが多いほど、見た目が無表情だった飛翔が最近、
ようやく……時折、笑顔を見せてくれるようになったのにそれも束の間。


再び表情を殺してる、そんな気がして。


初めて出会ったころのように。



私は病室のドアを軽くノックすると、
声をかけて、ドアを開く。


ベッドの上にはただ静かに体を起こして座り続ける
幼い少年が一人。

その視界に世界が映っているのか
映っていないのかすらわからないほどの
虚ろな視線で窓の外を見つめ続けていた。



窓の外からは、
柔らかな太陽の光が降り注ぐ。



その光を受けながら言葉を発することなく
ただその場に体一つ動かすことなく座り続けている。



「神威君……」


声をかけると、一度は私の方に視線を向けるものの
すぐにまた窓の外へと視線を移した。



それ以外、神威くんの反応は何もない。



「故郷のこと考えてるの?
 
 故郷のほうも雪が雨に変わって、
 私が帰ってくる時は、水嵩は上がってたけど、
 随分たくさんの人が、救助されてたよ。

 マイクロバスで山辺地区って言ってたかな。
 そこの人たちは、飛翔のマンションに避難するって。

 あっちには友達とかいたのかな?

 友達が居たなら心配だよね」



視線を合わさずに目線だけをあわして
隣で今も外を眺め続ける彼に、
一方的に話し続ける。



「飛翔が心配してた。
 
 飛翔と私は中学時代から親しくしてるんだよ。
 
 神威くんは……飛翔が嫌い?」



思わず紡いだその言葉に外を眺め続けてた彼は、
視線を私のほうに向けた。
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