悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

10.暴風雨 -飛翔-



三月下旬。


終業式前日。

相変わらず、徳力の今後の復興計画に
慌ただしく動き続けながら、
前夜、一本の電話を入れる。



明日は、神威の終業式。
俺自身がアイツを迎えに行ってやりたい。


遠い昔、まだ早城に預けられる前には、
兄貴が俺にそうしてくれたことがあったように。


少しでもいい。

俺が兄貴から与えられたものを、
何らかの形で、アイツに返してやりたい。


それがただの俺の自己満足だと知りながらも、
何かのきっかけを作ることでしか、
アイツとコミュニケーションを取るきっかけは存在しない。



翌朝、早朝から昂燿校に向けて車を走らせる。


途中のサービスエリアで、アイツが食べるかもしれないと
パンや飲み物を買い込んで、再び車を走らせる。




アイツを助手席に乗せて、
車を走らせるのが当たり前の日々になれば、
その時は今よりも、お互いの距離が縮まっているんだろうと思い馳せながら。



だけどその思惑は、全て崩れ落ちる。



俺が昂燿校に着いた頃には、すでに神威の姿はなかった。


車を降りて、学院の寮の方へと歩いていく。



「メイトロン」



寮の扉を開けて、中に向かって声をかける。



「はい。ただいま」



寮の掃除に大忙しのメイトロンが作業を中断して
姿を見せる。



「徳力神威の身内のもの。
 神威の父親の弟にあたる、早城と申します」


そう言って自身の身の上を告げると、
奥から老婦が姿を見せる。



「徳力飛翔……懐かしい名前じゃな」


徳力姓の俺の名を呼びながら、姿を見せたのは
俺が初等部の時代の、メイトロン・中崎さん。


「メイトロン中崎、ご無沙汰しています」

「大きくなりましたな。

 大学は医学部に通っていたはずですね。
 国家試験はどうでしたか?」

「気にかけて頂いて有難うございます。
 無事に合格し、4月から鷹宮総合病院で研修が始まります」


中崎さんと話している間に、最初に対応した若いメイトロンは仕事へと戻って行く。
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