悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「そうでしたか……。
 それは良かったですね。

 それより、用件は徳力神威君のことでしたね。
 徳力姓でしたから、もしやと思っていましたが、飛翔君の甥っ子にあたるのですね。

 神威君を迎えに来たけれど、もうここに神威君は存在しない。
 一族のどなたが迎えに来たかを知りたいと言うことでしょうか?」


中崎さんが俺がお願いしたかったことを先に言葉にする。


「その通りです」

「それでは、どうぞ奥へ」



中崎さんの承諾を得て、寮の奥のメイトロンの控室へと案内される。

その場所で、学院のセキュリティーに連絡を告げると
目の前のPCに、寮の前での防犯カメラの映像が映し出される。



寮の前、俺の車を探しているらしい素振りの神威。


その神威に近づく、後ろ姿しか見えない三人組。


神威にとっても見知った顔なのか、
アイツは躊躇いもなく【ためらいのもなく】その車に乗り込んだように思えた。




「メイトロン中崎、貴重な映像を有難うございます」

「飛翔君、どうぞ神威君と無事に逢えますように」




中崎さんはそう言って、俺を寮から送りだすと
愛車に乗り込んで、車を走らせる。



車内から華月に連絡する一本は「神威・行方不明」と一報。
それと同時に、親友の時雨の携帯にを呼び出す。



「飛翔、どうかした?」

「時雨、忙しいところにすまない。
 昂燿校の寮から、神威が姿を消した。

 一族のことだから、捜索願も出すことが出来ない。
 だから警察の裏情報で、何かあれば教えて欲しい。

 俺は引き続き、アイツを探す」

「わかったよ。
 お前も無理すんなよ。

 飛翔が無理をしたら、由貴が不安定になる」

「俺がじゃねぇだろ。
 お前が無理する方が、アイツは不安定になんだよ。

 じゃあな」


そんな他愛のない、言いあいをして
少し肩の力が抜けたのを感じて、電話を切った。



四月一日の研修初日当日まで、
俺は思いつく限りで、神威を探し続けるも
アイツの姿は見つけられないでいた。


ったく何処にいんだよ。
あのバカはっ。




自宅マンションにも殆ど帰れないまま
実家を気にかけることすら出来ないほど、
いっぱいいっぱいだった俺自身。



探し疲れて、マンションの帰宅した時は
母さんが、疲労困憊の状態でリビングのソファーに座っていた。





「ただいま。
 母さん、父さんは?」

「お父さんは、今日も徳力絡みの会合に」

「そっか。
 父さんに俺が無理頼んだからかな。

 母さんは、少し疲れてる?
 顔色、悪いみたいだけど」


母さんの傍に近づいて、ソファーに座る。
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